Phase4

 フレンズの駆除を終え、俺と四季は上野公園を散策していた。

 どうやら公園内には、西郷隆盛の他にも野口英世と小松宮彰仁親王の銅像があるらしく、四季が見に行くと言い出したのだ。

 俺も別にこの後取り立てて用事があるわけでもないので、彼に同行していた。



 ふと、周りを見渡してみる。

 談笑しながらジュースを飲む学生たち、手を繋ぎながら池の周りを歩くカップル、ベンチで居眠りをする老人……。

 


 俺は気づいてしまった。

 そんな平和な光景の中に。

 刺青のような文様を全身に走らせている生物が紛れていることに。



「……四季、フレンズ発見。駆除するぞ」

「……ん?」

「ほら、あれ」


 俺はフレンズの方を指し示す。

 四季は俺の視線の先を見た。


「あー、ほんとだ。フレンズさんすね」


 まるで他人事のように反応した。

 そしてこう言った。


「別に駆除しなくてよくない? その辺突っ立ってるだけだし」


 は?

 意味が分からない。


「フレンズを駆除するのが俺らの仕事だろ? 駆除しなくていいなんてことはない」


 四季は反論してくる。


「でも人間襲ってないじゃん」

「……今駆除しとかないと取り返しのつかないことになるかもしれない」

「フレンズ駆除する理由ってそれ?」


 俺が正論を吐くと四季は訊ねてきた。


「それ以外の理由なんてない」

「……だったら、その辺にいる人間全員、刑務所に入れないとだね」


 四季は真顔でとんでもないことを言う。


「だってそうでしょう? 人間にとって何か害になることをするかもしれないのってフレンズだけじゃあないよね。今そこを歩いてるあの人だって、そっちの人だって、健ちゃんだって、もちろんぼくだって……全員何か良くないことをする。でも人間は罪を犯した後にしか裁かれない。ならフレンズは? 彼らがもともと人間だったって分かったんなら、すぐ殺したりしないで、ぼくらと同じ物差しでフレンズを測っていいと思うのだけども」


 やはり何を言っているのか分からなかった。

 まあ、俺の仕事はフレンズを全部駆除することだ。

 誰にどう言われようとそれは変わらない。

 自明なことだ。

 俺はフレンズに歩み寄りつつ四季に言った。


「俺一人で駆除してくる。お前はそこにいろ」


 四季は俺の目の前に立ち塞がってくる。


「邪魔」

「邪魔してる」

「退け」

「やだ。……なんもしてないフレンズ殺すのって、殺人犯と同じだと思う」


 俺たちは睨みあった。






 何秒同じ姿勢でいただろうか。

 そんな雑念が俺の頭に浮かんできた。

 そのとき――。


「ふーん、プロテクターズでも隊員同士で喧嘩するんだ」


 横から声がした。

 咄嗟に声の方を見る。

 全身に文様。

 確実にフレンズ……だが他の奴と明らかに違う。

 威圧感というかなんというか。

 でもこれだけは一瞬で分かった。

 こいつには、勝てない。確実に。


「プロテクターズはフレンズを駆除するのが仕事なんじゃないの?」

 

 そいつは右手に持っていた物を前に掲げる。


「ほら、もたもたしてたから、俺が殺しちゃったよ」


 俺は先程までフレンズ立っていた方を見る。

 そこには誰もいなかった。


「こいつには人間を取ってこいって命令したはずなんだけどいつまで経っても襲いすらしなかった。こういう使えない部下は俺は処分することにしているんだ」


 そいつはまるで詩でも読むかのように声を発した。


「あなた、お名前は?」


 四季が唐突にそいつに尋ねた。


「俺はサトリ。フレンズのリーダーだ」

「サトリさん、あなたはなんで部下の方に人間を襲うように言ってるんです?」


 四季はにこやかに質問を続ける。

 こいつ何を考えているんだ?

 俺が四季を見つめると、彼は俺を一瞥してニヤリとした。

 なるほど。そういうことか。

 俺は彼の考えを理解した。

 彼はフレンズの情報を得ようとしているのだ。

 この状況でよく頭が回る奴だ。ちょっと危なっかしいけど。


「俺の目的は仲間を増やすことだからだ」

「ああー、理解理解。フレンズってもともと人間だって言いますしね。それで? 役に立たない部下の方々はあなた自ら手を下すと……そういうことですか?」

「そういうことだ」

「なーるほどぉー。期待通り動かない人ってほんといらつきますもんね、分かります」


 おい、分かるな。


「……お前、話が分かる人だなあ。俺と一緒に来ないか?」

「だが断る!」

「……なぜ?」

「だってぼく、初対面で申し訳ないけどあなたのこと、大っ嫌いだから。それに――」


 四季はサトリに向けてビシッと指をさす。

 また始まっちゃった。

 俺は心の中でため息をつく。


「正義のヒーローは、悪者にはなびかないからねっ!」


 正義のヒーローってお前……。

 恥ずかしくないのかよ。


「というわけでサトリさん、一回死のっか……。”水連海”」






 四季が水の剣を振るう。

 その剣がそいつの体を切り裂く……ことはなかった。

 そいつは変幻自在の水の攻撃を一歩も動くことなく避けた。

 俺は四季に向かい叫ぶ。


「そいつはヤバい!戻るぞ!」


 四季は俺の声が聞こえていないのか、無意味に攻撃を続けている。

 そんな四季の腹にそいつは一発蹴りを入れた。

 それだけで、たったそれだけで四季は五メートルほど後方まで飛ばされた。


「ぐあっ……!」


 四季の呻き声が聞こえる。

 サトリはなかなか起き上がれないでいる四季のもとに向かい、サッカーボールのようにぼんぼこと蹴り続けた。

 これは本格的にまずい。

 俺はスマホで素早くサトリの姿を撮り、スマホを持っていない方の手に力を込めた。

 すると、四季の体は磁石のようにこちらに引き寄せられた。

 そして俺は気絶している四季を担ぎ、ひたすら逃げ始める。



 幸運なことに、サトリは特に追っては来なかった。

 

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