Phase3

 よし、良いアングルで写真を撮れた。



 ぼく――坂本四季は銅像の写真を撮影した後、すぐに健ちゃんが向かった方へと走り出す。

 ぼくは近視なので、結構近づかないと人間かフレンズかを見分けることができない。

 なので今回も見つけるのに時間がかかっている。

 こっちの方角で合ってるはずなのだけどなあ、と思いつつ走り回っていると泣き叫びながら逃げていく女の人とぶつかった。


「あ、ごめんなさい。大丈夫ですか?」


 女の人はぼくのことを見た後、唇をわなわなと震わせながら右側にある雑木林を指差して、かすれ声で叫んだ。


「化け物……!」


 彼女が示した方を見やると二つの影が動いていた。

 目が悪いのでよくは見えないが、一つはフレンズ、もう一つは健ちゃんの影だろう。

 

「逃げてください」

 ぼくは女の人にそれだけ伝え、影の方へ向かう。






 しばらく様子を窺って、やっと様子が分かってきた。

 なんか……だいぶ手こずってません?

 ぼくが見る限り、健ちゃんはフレンズに斬りかかってはかわされて逆に攻撃を受け、斬りかかっては攻撃を受け……というパターンを繰り返していた。

 あの健ちゃんが苦戦するのだから相手はよっぽどの手練れなのだろう。

 ぼくも気を引き締めてかからねば。


 ベルトに引っかけている二本の短刀に手をかけ、目を閉じて集中する。

 息を吸って、吸って、吐く。

 目を開けて呟く。


「”水連海すいれんかい”」


 ぼくの短刀から水がほとばしり、鋭利な刃物となってフレンズの身体を襲う。




 水を操る能力。

 シンプルに言えばぼくのスキルそれだけの能力である。

 だが、フレンズの撃退には有効な手段である。

 ただの液体を刃物に変えて斬ったり刺したりできる。

 あと、ある程度なら遠距離攻撃もできるからね。

 ぼくは自分のスキルに”水連海”と名前を付けている。

 そのことをみんなに知られたときはめっちゃ呆れられたけど。

 なぜ名付けているかは……とてもじゃないけど今は言えない。



 攻撃を食らってからフレンズは自分が刻まれていることに気が付いたみたいだ。

 致命傷は与えられなかったが、回復にそこそこ時間はかかるだろう。

 その間にぼくは健ちゃんと合流する。


「思ったより来るの遅かったんだけど」


 なんか文句言われた。


「その手の苦情は受け付けてないんですけど。それより……結構やばめだったっぽいじゃん。あのフレンズ、相当強いの?」

「うん、強いね。パワーもスピードもある」

「そりゃあ厄介だ。なら連携しかないね」


 健ちゃんは頷く。

 フレンズは完全に回復したわけではないが戦える状態にはなったようだ。

 


 健ちゃんがフレンズに向かっていく。

 健ちゃんは戦闘系のスキルは持っていないので、自分の体術だけで敵に立ち向かっていかなくてはいけない。

 フレンズの懐に入り込み、すかさず抜刀して斬りかかる。

 敵もそれに応戦して、斬撃を払いつつ拳を打つ。

 その拳をつかみつつ、腹に蹴りを入れる。

 一般人では目が追い付かないようなスピードで戦闘が行われている。

 フレンズは目の前の健ちゃんのことしか見えていないようだ。



 連携というのは健ちゃんが近接戦闘でフレンズを一人に集中させている隙に、ぼくが”水連海”で遠くからグサッと敵を刺し、動きを封じたところを健ちゃんが乱れ斬りにするという物である。



 さて、ぼくも観戦ばかりしていられない。そろそろ出番だ。

 目を閉じる。

 息を吸って、吸って、吐く。

 目を開けて呟く。


「”水連海”」


 ぼくの短刀から水の剣が出現する。

 それはどんどん伸長して敵の鳩尾に、そしてその先の高木こうぼくに刺さり、敵が磔の状態になる。


「ナイス、四季」


 健ちゃんはそう言って、敵を刻みまくった。

 敵は数えきれないほどの肉片になり、辺り一面に転がり、そして消えた。



 任務完了。

 なぜか少し、切ない気持ちになったけど、自分でもどうしてか分からなかった。






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