第30話エピソード・・29



良子さんの携帯を鳴らしている、自分の携帯に何件かの着信履歴が点灯しているが今はそんな事に気を取られている時ではない。



 演じているキャラをもう一度思い浮かべながら、タバコに火をつけ、再び電話口の社長に話しかけた。



「社長、銀座つきました?今、有楽町? じゃあ銀座についたら中央通りの三越に行け。付いたら、三越のビルの脇にある公共の地下駐車場に入って、一般の駐車場では無くて、納品車両の止める駐車場にタクシーをつけろ。そこに駐車場の警備員がいるから、会社名とあんたの名前を告げて、バイヤーの木下って女を呼べ。そんな人知らない?そんなことどうでも良い!良いから呼べ。こないだテレビに出てたナンバーワンキャバ嬢に、高級品をしこたま買い込ませてたバイヤーだ。


 木下が来るまでの間に、タクシーの運転手に運賃以外に一万円渡して、そこの搬入口に1台赤帽を呼ばせろ。タクシー会社に勤めていれば赤帽の運転手に1人ぐらいは知り合いがいるはずだ。


 木下が来たら、孫娘の七五三のお祝いを、目黒の雅叙園で盛大にやるから、その時の景品を買いに来たと言え。そしたら高級バックや財布、毛皮、時計なんかもいいな。あんたの財布に入っている、あんたの腹と同じような真っ黒なカードで買えるだけ買い捲れ。そうだな最低一億五千万円分ぐらい、買い物をしろ。


 早く。急がないと、眼が覚めてしまうぞ。色や形なんて何でもいい。とにかく高額な物を買い漁れ。


 買い物が終わったらあんたは、木下に言って荷物を全て搬入口の赤帽に積ませろ、荷物を全部詰め込んであんたのその携帯を運転手に渡して、赤帽が地下駐車場を出たら社長さんとはさよならだ。



 会社に戻って娘と孫の無事を祈ってろ。赤帽が無事に俺の指定したとこまで来て、警察の追跡も何も無く、全てが手に入ったら、娘と孫は家まで送り返そう。


 勘違いするなよ、赤帽は俺自身のとこには来ないし、孫も娘もその来た赤帽に載せて運ばせる。赤帽が荷物を下ろした後に、居場所を教えるから、何か変な事が起きたら、目隠しをしたまま放置した2人の行方は永遠にわからないままだ。



 ちなみに娘の携帯は鳴らしても意味が無いぞ、電波の届かないところに居るからな、うまくやれよ社長、お疲れ様。」ここまでで、約五十分掛かっている。


 

 当然逆探されていてもおかしくは無い。この携帯の電波が出ているところぐらいはもう察知しているだろう。赤帽の運転手に目的地を告げて、駅のレールに携帯を投げ込んだ。

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