第29話エピソード・・28
タバコを一本。
フィルターが焦げるほど吸い尽くしてから、携帯で電話を掛けた。
「もしもし。足立さんの携帯で御間違いないでしょうか?」
警察からの電話だと思った社長はすぐに携帯に出た。
「社長さん、あなたのお孫さんと、娘さんは今私の手元にいる。何事も無く無事に帰して欲しければ、現金で四億。四億で無事にお返しします。何もあなた個人に全額用意しろとは言わない。会社の金を使えばいい。一応言っておく、金が用意できないとか、時間が無いとかは聞き入れない。声を聞かせてくれとかも聞き入れない。
わざわざ大会社の社長さんが、御相手だったから丁寧に話してはいたけど、俺は金なんかよりも、恐怖に怯えながら死んでいく女の顔が堪らないんだ。お孫さんも娘さんも、俺がたっぷり楽しんだ後に殺してやってもいいんだが、何分大所帯だと金が要るもんで。金さえ用意すれば何もせずに返してやる。今から五分後にまた電話する。会社の役員達と相談しておけ、なんなら慌てて警察に電話すればいい。あなたの電話一本で娘と孫の命が今日で終わることにはなるが」
これだけ言って電話を切った。
携帯を持つ手の振るえと汗が尋常でないことを物語っていた。
俺は小走りに駅のホームに行き、あの自殺の共謀者に電話し待ち合わせを決めた。
タバコを肺まで深くすう暇もなく、口に咥えたまま社長の携帯を再び鳴らした。
「社長、話は付きましたか?まああんたらの話なんてどうでもいいけど。今から電話を切らずに下の銀行まで階段で行け。もし電波が悪く、電話が切れたらジエンド。あんたの孫娘もジ・エンド。
ゲームは終了だ。
エレベーターに乗ったら携帯の電波が途切れるのぐらい分かりますよね~
あなたの今居る階は何回ですか?そう十九階。運動不足解消には調度いいでしょう。
五分で下りてください。その時他の人間は一人だけ、経理の担当者以外は誰もついてこないこと。もう一度言って置きますが、俺は金よりも悶え苦しんで行く様が好きなんだ。
あんたの娘と孫を犯して殺すまでの写真やビデオを取って売れば軽く二、三億は稼げるんですよ。大会社の娘が父親に、祖父に見捨てられ落ちていくさまは特にネ。
どうです社長、半分ぐらいは下りれましたか?待ってくれ?何をですか?あなたは死刑囚が死刑執行される直前に、無実だと訴えて助かった事があるとでも思っているんですか。
どんなにあなたが偉くても、あなたには意見をする資格は少なくとも今は無い。
あと二分。
あなたが早くしないと、催涙スプレーで眠っている、お孫さんが起きてしまいますよ。最高の恐怖は記憶の中に刷り込まれ、一生消えない。ほら、さあ早く。
付きましたか。そう、ご苦労様です社長、じゃあ今から言う口座に四億、あなたの会社の口座から振り込んでください。あなたの会社は振り込み上限を最大にしているはずだから、一回に5千万は振り込めますね。それを8回。単純に同じ操作をすればいいだけだ、時間を掛けずに手早く、経理担当者にやらせなさい。あら、そんなに肩で息をしちゃって、運動不足ですよ社長、良くないな~ほら早くやらせなさい。私はATMの防犯カメラをオンラインで見ているから、振り込む振りをしても意味が無いですよ。
しかもこの口座は架空の口座だ。あんた達がどんなに追っかけようとしても、決して分からない。この世に存在しない偽名で作られた口座で、入金された金は、自動引き落としシステムにて為替を購入、為替を自動的にある団体に寄付し、寄付された口座から為替を即座に自動で現金に換金、それをスイスの銀行を経由して、オートで他の口座に送金されるように設定してある。数分後には入金した4億は跡形も無くなっている。
最愛の娘と孫が助かるのであれば、4億ぐらい安い物でしょう、社長。
どうせ何も変わっていない薬を新薬とか言って稼いだ金だ。また同じ事をやればいい。そこは経理に任せて、あなたは外に出てください。大丈夫、そこは俺がちゃんと見張っているから。
あんたはタクシーに乗って銀座に向かえ。
早く。
電話はもちろん切らずに。ほら、タクシーが来た、止めろ。なに、人が乗っていたって、そんなの関係ない、あなたは人の命を、自分の孫娘の命の手綱を握っているんだ。薬でも金でもない。早くしろ。」
緊張のせいか時折、口調が演じているキャラと違う時もあったが、ここまでは順調に想像していた通りに事は運んでいる。
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