第27話 エピソード・・26
小さな電気屋さんは真っ暗でとても商売をしているようには思えない面持ちだった。
がんのアパートにも誰も居なかった。
もしかしたら、健の家に集まっているのかもしれない。みんなで俺を探してくれているのかも知れない、でも、もしそうだったら俺は、俺が決めた人生の最後のジョークを実行する事が出来なくなってしまう。
このジョークは一人でやらなければ行けないんだ。
皆を幸せにするために実行するのに、あいつらを巻き込んではいけない。
健の家には行くのはよそう。
もしかして、理恵も混ざってパーティを開いているのかもしれない、俺が居なくなってせいせいしているのかも。
俺はそっちにかけた。そのほうが別れを迎え易いから・・・
兄貴のアパートに着いた頃にはもう太陽が「こんにちは」をし始めたあたりだった。
兄貴のアパートの前には、俺の中学校の同級生、渡部と高橋が缶コーヒーを飲みながらなにやら下らない話をしていた。
高橋には中学の時、高橋が好きだった美奈子ちゃんの体操着を盗んだ事件の犯人に仕立て上げ相当恨みを買っているから、会うわけには行かない。
こんなところで何をしているのか分からないが、十九にもなって朝まで人様のアパートの前で談笑しているなんて、なんて幸せな奴らなんだろう。
迷惑甚だしいが、兄貴に会っても何を話していいのか分からないから、かえって踏ん切りが付いた。
俺は近くの公園で仮眠を取り、中学校時代大嫌いだった、二つ上の先輩の事務所に行った。先輩は喧嘩はそこそこ頭は異常に悪かったが、面倒見がいいとかで、ヤクザの事務所に出入りしているチンピラだった。
先輩に適当な作り話をかまし、直ぐに偽名の銀行通帳を一部と偽名の携帯電話を一台譲ってもらい、太陽が折り返し地点を通り過ぎた頃には、目黒のある幼稚園の前にいた。
俺が前に、理恵の病院で何度か話した事がある、四才の桃子ちゃんを探しに。
桃子ちゃんのお父さんは、理恵の病院にも出入りしている製薬会社の部長さんで、年に一回の健康診断でガンマ値に以上があり、再検査の為に数日理恵の病院に入院していた。
たまたま理恵が夜勤に行くために病院まで送った時、病院のロータリーでバスを待っている桃子ちゃんとお母さんに会い、理恵と楽しそうに話をしている桃子ちゃんを目黒駅まで送って行った事、桃子ちゃんがこの近くの幼稚園に通っていて、祖父が製薬会社を経営している事などその時は他愛も無い会話だったが、このジョークを考えて居る時に、それを思い出し桃子ちゃんには悪いが利用させて貰うことを考えた。
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