第26話 エピソード・・25





 ファミレスをファミレスを出た俺は自分の卒業した小学校の中庭に向かっていた。


 俺にはこの学校が自分の家の様な存在だった。

 ここにこうして立つと色々な記憶が蘇ってくる。



 俺達が二年生の頃のバレンタインデー。

 健の机に買ってきておいたチョコと手紙を入れて、待ち合わせしたこと。あの時の健の顔っていったら、そりゃ~凄い顔で怒ってた。



 五年の時には、理科の時間に皆で、屋上の踊り場で花札して校長先生に見つかったこともあった。


 変わり者の校長は、授業をサボってる俺達にそのことを一言も言わずに、五人で給食のみかんを賭けた。最高の校長だった。



 この学校で、俺が生きていた記憶が、俺の脳裏に焼きついている。

 いつも一緒に居た仲間達、最高に楽しかった。無性に会いたくなってしまう。



 もし明日で俺の十九年間の成長が止まるのであれば、この世界で生きる最後に、もう一度だけあいつらと、ここまで育ててくれた兄貴、そして理恵に会いたい。


 話をしてしまうと、俺の決心は揺らいでしまうかもしれない。そっと遠くから目に焼き付けるだけ、それぐらいの些細な幸せなら神様も御止めにはならないだろう。




 俺は理恵と一緒に暮らしていたアパートに向かった。



 部屋の明かりは着いていなかった。


 今日も夜勤なのかもしれない、人は面白い生き物で、仮に昨日まで一緒に居た男が居なくなっても、自分の今日を懸命に生きなければいけない。



 明日になれば俺はこの世の者では無くなってしまう、俺が死んだことを知った後、理恵は号泣し数日眠れないかもしれない、やがて時が俺を忘れさせ新たな恋愛もするだろう。



 理恵はどんな男と付き合い、結婚し子供を生んで生きて行くのであろうか。


 俺が幸せに出来ない分、どんな男と幸せを噛締めて行くのだろうか。


 理恵の未来予想図の中に俺は居ない、電気の消えているアパートが俺の目には土砂降りに見えた。



 それでも俺はこう考えてしまう、今俺の目に流れる涙は、理恵のためじゃない。

 自分の叶わぬ幸せのために流れている。俺は卑怯者だ。自殺願望者と同じ、全てから逃げようとしているだけだ。



 でも会いたい。


 会って抱きしめて、理恵の鼓動の中に埋もれたい。


 でも、止め処無く流れる涙の先には、理恵の父親の顔が浮かんで居た。



 俺のせいで、俺の下らないアイデアのせいで一人の人間の人生が狂っていった。



 俺には幸せになる権利なんて無い。いや、理恵と付き合う権利だって、生きている権利だって無いのかも知れない。



 生まれてきたこと自体が何かの不具合だったのかもしれない。

 もし、仮に神様がこの世に存在し、人類に人生と言う名のレールを引いているというならば、俺の人生のレールはスタートから反対方向に進んでいたのかもしれない。


 若しくは神の中で俺は、いじめられキャラだったのかも知れない。いじめられキャラの癖に、些細なことで幸せを感じたり、喜んだりしている俺を見ていられなくなって、癌を植え付けて終わらせようとしているのかもしれない。



 どちらにせよ俺は、散々自分勝手な矛盾を繰り返し、癌に侵され死にいたる。


 なんで俺なんだろう、俺よりも楽しく幸せに生きている人間は沢山居るのに、何で俺なんだろうか。やっと人並みの幸せを手に入れかけていた俺になんで。



 止まらない涙のレンズは、綺麗に光る月夜のダイヤモンドダストのようだった。

俺は被っていた帽子を目深に被り直し、さとしの家に向かうことにした。

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