第23話 エピソード・・22





  いや、今の生活がどれほど俺にとって幸せか、大切な時間かを解ってくれず、痩せて行く俺を無理やり病院に連れて行った理恵を、俺はいつしか恨んでいたのかも知れない。



 俺の担当医はもちろん理恵だった。数日間の入院期間にCTをとりMRIを受け、体の隅々までを分断され、血液検査、内視鏡で取った細胞検査もした。



 検査結果を求める俺に、理恵は直ぐには結果が出ないと告げ、検査を急ぐために病院に籠るから秘宝は先に家に帰っていてと言った。



 三日後、俺はそれを健の口から聞いた。




 健は俺にこういったんだ



「 秘宝ちゃん、さっき理恵ちゃんからメールがきて、言いづらい事があるからメールで書きますって。


 俺もそれ読んで心臓止まるぐらいビックリして、ずっと考えていたんだけど、秘宝ちゃんとは隠し事無しって小さい時からの約束事だからって思って・・・理恵ちゃんからのメール直接読むからちゃんと最後まで聞いて、




「秘宝の検査の結果が出ました。思ったよりも良くなく、三日間考え続けていたのですがこのままでは、もうまともに秘宝の顔を見る事が出来なくなりそうなので、健ちゃんに相談したくてメールさせてもらいました。


 本当はメールではとても相談出来ることではないのですが、会ってしまうととても辛いので・・・検査の結果は、肺癌でした。


 末期の症状なので体中に転移が



 私の力ではどうしてあげることも出来なくて・・・三日間家に帰れませんでした。  


 少しでも症状を和らげることができるような手術は無いか、どうにかならないかと他の先生等とも協議したのですが、方法がありませんでした。


 あと三カ月程度の寿命しか残されていません。


 とても私の口から告知なんて考えられなくて・・・健ちゃんに相談しようと思ってメールしました。正直、何をどうすればいいのかわかりません。



 医者になんてならなければ良かった。


 このまま結婚して幸せな家庭を築いていくものだと信じていた人がまさかこんな結果になるなんてとても信じられません。

 もしも秘宝がこの世からいなくなるのだとしたら、隠し事をしたままでは大好きな秘宝に申し訳ないと思って、健ちゃんには正直に全てを話したいと思います。




 私の父親は2人組の物盗りに襲われたと言っていましたが、数週間前、事件の担当の刑事さんが病院に来て、事件の詳細が見えてきたこと、趣がちょっと変わったことを淡々と話してくれました。


 当日、父を見たと言う目撃者がいて、その人が父を見たのは、道路を歩いていて物盗りに襲われた父では無く、山の中腹の公園で、若い学生の女の子と話をしていて、その後暴走族のような4~5人に囲まれ、その中の1人が父に殴る蹴るの暴行を加えた。



 その後仲間に遮られ、女子学生と共にその場を立ち去ったのを見た。


 被害者は、足を引きずりながら公園を後にしたので、目撃者は怖いのと、自分に害が無かった事からそのまま何もしなかった。


 ただ、その若干血で染まった公園の角に、族の誰かが財布の中身をばらまいた時に飛んだと思われる、女子中学生の写真が数枚あり、目撃者はそれをそっと自分のポッケにしまっていた。



 刑事さんの話だと、その目撃者の証言だけだと、たとえその暴漢を捕まえる事は難しいだろう。

 その目撃者は、かに山の防空壕の奥底に住み着いている、ホームレスなので、裁判になった時に、裁判官の心証がどうなるかわからない。


 それと、言いづらい話ですが、ホームレスが持っていた写真も確認し、映っていた女子中学生を近辺の市から、都内在住の女子中学生まで範囲を広げ捜索したところ、  その女子中学生の1人を捜し当てました。

 ただ発見はしたものの、制服姿で映っている写真と裸の写真があったことから、児童買春の疑いがあり、その中学生も聴取を取っているところです。



 以上の事から、警察の考察としては、この事件の全貌は、暴走族による美人局によって1人の中年男性が暴行を受けた、暴行事件と考え、今後も捜査を続けていきます。


 ただ、児童買春の件も新たに捜査組織を立ち上げて行くので、理恵先生のお父様にも、お話しをうかがえるようになりましたら、聴取をさせてください。



 との事でした。

 刑事さんの話を聞いた時、正直秘宝の事で頭がいっぱいで、最初私も話が見えて来なかったのですが、ふと考えた時にいろいろな事がわかりました。


 私の父はあのかに山で暴行を受けたのです。みんなが話してくれた、ジョークによって。

 でもこのことでみんなのことを恨んだり、憎んだりはしていません。

 父親に原因があったからこそおきたことなのです。それでも私は秘宝の事が大好きだから結婚したい、いつまでも一緒にいたいと思っています。今は父の事件の真相よりも、秘宝の病気の事の方が私には気がかりなのです。病院で寝ている父もそれは解ってくれると思っています。


 もしこのメールを読んで健ちゃんが秘宝に告げたいと思うなら、それはお任せします。 

 私はずるい女です。こんな大事なことを人に委ねて、自分の肩の荷を軽くしようと思っているのですから・・・」



秘宝ちゃん、秘宝ちゃん・・・」

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