第22話エピソード・・21



 最初の頃は、毎週末、理恵を含めた五人で遊んでいた。


 

 健やがんが俺達がしてきた数々のジョークを理恵に話すまでは。


 俺達にとってはジョークだった物は他の人間には卑猥に聞こえる。

ジョークにならないこともある。



 理恵にとっては俺達も、理恵のお父さんに暴行を振るった暴漢も同じに見えてしまうのではと、怖かったんだ。



 元気だった頃の父親を思い出して大泣きをしている理恵を見ていた時、俺にはあの醜いおやじの事が浮かんだんだ。



 もしかして理恵の父さんを至らしめたのは俺たちなのかも知れないって、理恵だってそう思っているのかも知れないって、こう言う人間達が運びっているから、暴漢なんて産まれてしまう、そう考えるようになっていた。



 それでも理恵を手放したくなかった俺は、それからは余り理恵と仲間達を合わせないようにしていった。



 寄り添うものがある喜びを二人とも一心に感じていた。


 理恵と一緒にいると全ての物がゆっくりと動いているように思えた。穏やかな気持ちになれた。理恵も同じだったに違いない。


 空気でさえも二人の間に入るのが嫌に思えた。理恵の全てを受けとめたかった。常に理恵を感じていたかった。記憶の無い母親の温もりを理恵の中に見出していたのかもしれない。


 二人で一部屋のアパートを借り暮らすようになった頃には、健やさとしやがんも同じ町には住んでいない様になっていた。



 健は高校生の妹と二人で小さなアパートに引越し、駅前のケーキ屋さんでバイトをして生計を立てていた。


 さとしは親父の小さな電気屋を受け継ぎ隣町で店をきりもみしていた。

 がんは俺の面倒を見てくれていた大工の親方の後を継いだ兄貴の弟子になった。


 俺達は6畳の和室と3畳ぐらいのキッチンのあるアパートで暮らしていた。



 理恵は医者とは思えないほど、家事に頑張って、理恵の休みの日には必ず、二人で公園や映画に出掛けていた。


 お互いの孤独を、重なり合うことで払拭していたのかもしれない。



 俺はこのところ体の調子が余りよくなく休みがちになってしまってはいるが、内装の仕事を手につけ職人として二人の生活を支えていた。



 理恵の稼ぎ分はお父さんの入院費に当て俺の給料だけで暮らしていたので、とても裕福では無かったが、良く言う、愛し合っている二人にはお互いを思いやる気持ちだけで幸せだった。



 理恵が医者になって、あの病院の先生になった頃には俺は体重が五十キロを切るぐらい痩せこけていた。



 その頃から理恵は頻繁に、健とメールのやり取りをするようになって行った。



 それをあまり面白くないと思っていた、俺の体のことを健に相談しているという理恵に、いや健に、嫉妬感を抱いていたのかもしれない。


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