第21話 エピソード・・20

 理恵は医大に行く傍ら近くの大学病院でもバイトをしていた。

お父さんが入院している病院だった。



 理恵の父さんはその病院の内科の教授をしていた。理恵も当然、将来を有望視され医者になることは小さい時からの夢だったが、その夢を確実にさせたのは父さんの病気からだった。



 理恵の父さんは二年前に暴漢に受けた外傷とその時起きた心不全から、今も意識が戻ってきていない。



 暴行を受けた直後、自ら救急車を手配し、救急車を待っている間に警察に、事の成り行きを連絡した。2人の物取りに襲われたと。


 2人は年齢が30歳前後。中肉中背の短髪の男と背が高いがっしりとした体型の金髪のロン毛の男だったと。取られた物は財布の中身の現金とカード数枚。



 自身はこの先の数日前に自身が担当して手術を施した患者さんの家に様子をうかがいに行くところだった。と説明した後、身体の怠さを覚え、心臓に強い衝撃を感じ電話をきり、意識を失った。



 理恵は父を死の淵から引きずり出すためにがむしゃらに勉強をするかたわら、父親の築いた財産に頼ること無く、自分自身で生活費や学費を稼ぐために必死なって働いていた。



 当時、理恵の父さんは仕事一本の性格で家庭に顧みることはなく、母親は理恵が高校生の時に弟を連れて出て行ってしまった。



 父は期待を掛けていた長男の行く末の為にほとんどの資産を母親に譲渡したが、

自分の側に残った理恵には何もしてくれなかった。

 そんな境遇のなかでも理恵には父親が一番だったのに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る