第20話 エピソード・・19


 たまに夕方ゲーセンで見かけていたその子に、話すきっかけを作ってくれたのは、全く知り合いでも無い同い年くらいの、ストリートファイター好きのやつだった。



 アーケードのゲーム機の席向こうの相手に勝負を挑む、そのゲームは強いやつの後ろには人だかりが出来るほどだった。


 俺はアクションゲームよりどちらかと言えばRPG的要素の入ったゲームの方が得意だったが、健の席の後ろにいつも人だかりが出来ていた。

 たまたま健の対戦相手になったその学生が、何度も何度も50円玉をつぎ込むのを見て、止めに入った店長の手を払おうとした手が、よけた店長のせいで、店長の胸を軽く押す形になった。店長はゲーム機の一段上がったところで足を挫き、転んだ拍子にとっさに出した手が当たった理恵が、コイン落としをしていた俺に思いっきりぶつかってきて、大量のコインをゲットさせてくれた。

 

 誤り倒す角刈りのびっしりと決まった店長が、不正に得たコインにさらに詫びの印で2人にくれた100枚のコインがきっかけで俺と理恵は仲良くなれた。


以前ゲーセン帰りに、駅前の本屋でバイトをしている理恵を見たときから、俺の人生は決まっていたのかもしれない。


理恵はまるで、ふわふわしていた俺をふんわりと受け止めた、蜘蛛の糸のようだった。

調度その時からだろうか、俺の咳が止まらなくなってきたのは。


 破裂した水道の鉄管のように、出会ったばかりの二人はお互いの全てを吐き出し、惹かれ合って行った。まるで、溶かしたチョコレートを再び固めたように、二人は重なり合って行った。


理恵と知り合ってから一年、いままで健がいた場所には、自然といつも理恵がいるようになっていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る