第16話 エピソード・・15

 

 俺自身、人を騙すことなんて、クラスのみんなにちょっとしたジョークでやるだけで見ず知らずの他人様を騙したのなんて初めてだった。


しかもこんなに見事に。


 俺がタバコに火を付け、大きく呼吸をしている間に、さとしがあっちにいったりこっちにいったり、あわただしく動いていた。


 俺と健は小さい時からずっと一緒だったこともあってか、たまに学校で漫才やコントを披露してクラスメートや先生を笑わしていた。

 ネタ帳なんかも、ジャポニカ3冊に達しているほどだ。


 そのかいあって健が電話を切ったときには、四人が一斉に大爆笑、ずっと黙っていた分、さとしとがんは糸が切れたように話し始めた。健は電話を変わってから、ディレクターの振りをして、相手の電話番号、住所、家族構成、口座番号等々色々聞き出し、壱千万の振り込み方等を適当に話した。


 そして、壱千万支払うと税金が掛かることを説明し、こちらからは壱千万全額振り込むので先に税金分の三十万をこちらの口座に振り込んで欲しいことを説明した。

 もちろんそうすれば、振り込まれた側は何の手続きも無く、こっちで全ての手続きをすると言う口実で。


 健の一円しか入っていない農協の口座番号を教えた。

俺たちはこの時点では、金がどうとか言うよりも人を騙す興奮に溺れていただけだった。


 それから俺たちは同じことを何回か繰り返した。さとしと健がコンビを組んだり、俺とがんがコンビだったり、テレビのクイズ番組になって放送は来月の九日ですから~とか言ってみたり、最高に面白かったんだ。

 俺たちは8時ぐらいまでそんなことを繰り返しながら、取り合えず今日は帰ることにした。



 家に着いてから、カップラーメン用のお湯をやかんにいれ火をかけている時にふと気付いた。

 もし健の口座に金が振り込まれたら、健が疑われてしまうことに。

 直ぐに健に電話してそのことを話し合った、ずっと考え込んでいるうちにラーメンは焼きそばに変わっていた。

 翌日、四人で話し合い、事の重大さに気付いた俺たちは適当な話で今回の件は無くなってしまったことを、クイズの回答者たちに連絡した。これが俺たちの一番初めのプラクティカルジョークだった。


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