第13話 エピソード・・12

 俺達が小学生の頃から通っている駄菓子屋。結構昔からずっと婆ちゃんと爺ちゃんが2人で切り盛りしている。 幼稚園ぐらいの子供を連れたお母さん達がくると、めっちゃ愛想よく話しかける婆ちゃんだったけど、俺たちが店内をプラプラとふらついていると、万引き防止の為かきまって咳ばらいを連発する。


 爺ちゃんとはほとんど話をしたことが無いけど、俺たちが小学校に通う朝は、店の脇にあるいくつか並んだ花に水をあげ、ランドセルを背負った子供たちをぼんやりと眺めていた。



 ここには駄菓子の他にも、ミニラーメンやカレーパンとか調度いい物が売っているんだ。レジ台の後ろに、いつもおいてある火鉢の上で沸かしたヤカンのお湯を貰ってラーメンに入れる。

 三人が買い物をしていると、健だけ外でたった一台置いてあるゲーム機を覗き込んでいた。



 ミニラーメンにお湯を入れ終わって、外に出ると健は小さな声で言った。

「暖かそうなにおいだな~」って、健は母ちゃんから月二千円しか貰っていない小遣いで、俺達と一緒にゲーセン通いや買い食いを遣り繰りしてる。


 それでも健は一度も、奢ってとか、貸してとかは言った事がない。

 長男としての自覚なのか、プライドなのか。

 そういう健が俺には少しだけ兄貴とダブって見えていた。


「暖かそうじゃなくて、美味そうなにおいだろ」

 俺は健にミニラーメンと酸いかを一本渡し、もう一度ミニラーメンにお湯を入れに行った。


 俺たちはタバコも酒もシンナーですら嗜むが万引きはしない。

 しないというのは間違っていて、小六で卒業した。

しまくった本屋が潰れてしまったからだ。俺達が取った本を古本屋に売って小遣いを作ると、本屋の白髪のじいちゃんは買った本の分、金が無くなる。自分達の事しか考えて居なかった俺達が、そこに気がついた時には、本屋のシャッターは開くことが無くなっていた。

 そのときから万引きにだけは嫌悪感を持つようになっていた。


 俺はミニラーメンを食べ終わる頃には、もう作戦は考えついていた。

 健に炭酸の効いてないサイダーのチュウチュウを渡し、フィリックスガムを噛みながら、健の家に戻り、新しい悪戯作戦の内容を皆に明かした。


 頭の回転の良くない彼らにはよく理解できなかったみたいだが、健だけはちゃんと分かっていたそぶりで、何度も頷いていた。

 とりあえず、手始めに俺が受話器を持ち適当な番号を回した。


プルルルルッ、プルルルルッ出たのは気の強そうな声の親父だったから直ぐに切った。

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