第10話 エピソード・・9
学校全体で夕方六時ぐらいから集まって、お母さん達が作ってくれたカレーライスを食べ、お父さんや町の青年部の人達が組んでくれたキャンプファイヤーを囲む。
紙皿とスプーンを持参して、辛口と甘口と分けられた列に並び、学年全員で火を囲みながらカレーを食べる。
カレーは誰だって大好きだから、俺も健も学校の行事の中で唯一、ノリノリで参加していた。
ちょっとずつ、放たれた小さな火種が大きな炎になり、組み上げられた大きな丸太の木を燃やしていく。校庭の真ん中がまるで、地球の真ん中かのように明るく辺りを優しく照らす。 風に吹かれてゆらゆらとしている炎に、舞上げられた黒い灰が、とても綺麗に見えた。
カレーを食べ終え、スプーンを各自で洗って、少しずつ火の周りに生徒達が集まってきた頃、いつものようにさとしと、さとしの取り巻きと、がんがじゃれ合い始めた。全校生徒が集まってはいるが、自然と炎を囲んで学年ごとに大体が固まっていた。
俺と健は学校の中でも、クラスの中でもいつも2人きりだったから、あまりそういう行事ごとに参加したことは無かったのに、その日は、いつものようにさとしにいじられていたがんが、ほとんど会話もしたことの無い俺達の前に、凄い勢いで走ってきた。
目の前に立ったがんは、何も言わずに俺と健の間に入り、二人の腕を強く掴んだ。
こんな性格でこんな風に生活をしてきた俺は、正直、同級生や先生達にまるで関心を持ってなかったし、いじめる人間も、いじめられる人間も特に興味が無かった。
ちょっとした自己嫌悪からなのかもしれないが、俺には双方とも心にゆとりがあるように思えていた。
偶然にも、この学校の生徒達は、偽善者が多いのか、俺や健のような、いじめ易い標的は相手にしてこない。弱い部分の丸見えの俺が、相手にすらならないのか、それとも、健気に見えているからなのか。こんな生き方でも必死で生きている人間が怖いのかは解らないけど。
がんが俺達の目の前に現れた後、取り巻きの輪の向こうに、がんの教科書を手に持ち、轟々と炊き込める丸太の中めがけて、今にも投げ込もうとしているさとしが見えた。
最初はふざけているだけの様に見えたさとしだから、取り巻きのみんなも冗談だと思っていた。キャッキャ笑う者も、手を叩いて喜んでる者も。ただ、さとしは冗談と本気の区別がつかない、ちょっとヤバい男だということは皆が解っていたから、さとしを見るみんなの目が、少し緊張感を漂わせていた。
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