第9話 エピソード・・8

 そんなお互いの家庭の事情もあって、健とはいつも一緒に居た。


 俺よりも顔一つ分ぐらい背がでかく体格も良いが、それ以外に俺に勝っているところは、見えている部分では俺には見当たらない。


 頭も悪く運動神経も悪い、未だに分数の足し算もかけ算も、逆上がりも出来ない。


 だけど俺のアイデアにいつも人一倍乗ってくれ、最高に楽しんでくれる、最良のパートナーだ。


 健と仲良くなったきっかけは、幼稚園の入学式が終わって数日後。

園の中では、上履きを履き、園庭で遊ぶ時は、外履きシューズを履くのが通常だった。

 

 ある日、園内で遊んでいるときに俺をみた健が、そっと自分の上履きを渡してきたから、俺はびっくりした。

 だって、自分の上履きを、しかも全然自分の足とはサイズが違う上履きを、差し出してきたから、入園してから誰とも口をきいていなかった俺の顔が、嬉しさと楽しさで満面の笑みをさらけ出させられた。


 幼稚園に入学して間もない園児が、上履きを履いていない俺を、気遣ってくれる。この一撃で、健の心の奥底の優しさと包容力に兄とはまた別の信頼感を感じた。


 妹のさゆりの面倒見もいい健だから、幼稚園の時からひょこひょこついてくるさゆりも、いつも一緒に写真に収まっていた。


 さゆりは健より俄然賢くて、両親に似ず目鼻立ちのしっかりとした幼児だったから、写真でも健より目立っていた。


 低学年までは、健の家で正月の年越しそばを食べ終わると、健の母ちゃんと、健と、俺の自転車の後ろにさゆりを乗せて、毎年小学校のそばの神社に除夜の鐘をつきに行った。


 鐘をつく列に並んでいる時は、いつも俺の手を握って並び、四人の中で一番初めに鐘をつくさゆりだけど、帰り道に必ずと言っていいほど、夜道を怖がるから、帰りは毎回健の後ろに乗って、さゆりにはまだでかい、健の背中に埋もれながら俺を家まで送って帰って行った。


 がんとさとしとは、小四の時からの付き合い。


 がんは、極真空手を教えている父に小さいときから鍛えられていたから、きっと強いくせに極端な照れ屋だから何も言えなく、列の一番前で腰に手を当てるほど、背が小さいからいつもいじめられていた。

 きっと真剣に走れば、みんなと良い勝負になりそうな筋肉質な身体なのに、無口でシャイがそれを邪魔していた。


 それを先頭に立っていじめていたのが、さとし。

 学年の中でも断然に背がでかいさとしは、50メートル走は学年で一番で、いつもクラスの中心人物だった。

 学校の中ではいつも周りに何人も引き連れて歩き、低学年の時から、授業の合間の中休みの時間でも、高学年の生徒たちよりも先に校庭に出て遊ぶほどだった。


 そんな四人が固まる様になったのは、四年の夏休みに開かれたキャンプファイヤーでのことだった。

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