第4話 エピソード・・3
特に健とは幼稚園からもう十数年の付き合い。
両親のいない俺は、健の家で新年を迎えることが当たり前になっていた。
うちは本当だったら5人家族だったみたいだが、会った記憶も無いので何とも言えない。
俺が生まれて直ぐに両親と長女は交通事故に巻き込まれてこの世を去った。
両親は苦境を乗り越え五十近くになってから俺を授かったから、神様から貰った宝物のように喜んでいたみたいだ。
そのおかげでというかなんというか“秘宝”と書いてひろと名づけられた。
両親と姉が無くなってからは十六歳離れている兄貴が俺を育ててくれた。
他に身よりも無く親族と言えるのは父親の、父親とは母違いの姉、僕らの伯母さんぐらいだった。
伯母さんは18歳で結婚し、夫婦生活10年目を迎える前に離婚。子供を授かる事が出来なかった事も理由だったのか、離婚をして直ぐに自律神経失調症で入院、もう入院して二十年以上たつらしい。
引き取り手のいない兄弟を、団地に入れて生活保護を受けさせる手はずを整えてくれたのが、親父の親方。
親父は40歳をちょっと超えるまでは有名な会社の証券マンだった。今でいうそこそこの大学を出て、新卒で総合商社に入社。合併先の証券会社の社長に気に入られ、はたから見たら出向の様に見えていたが、親父にとっては自分を気に入ってくれた人の下で働く方が、俄然働きがいがあったようだ。
証券会社では主に新規上場を目指す会社の査察や監査を行い、主幹先、融資先の斡旋などを行っていたから、便宜の接待や土産など、それはそれは大変な物だったが、頭の堅めの親父は、それらを全て社長宛てにと促していた。
そんな信頼関係からか、若くして課長から専務の地位まで登りつめ、先に入社した商社からも、専務以上の椅子を空けてあると、出戻り要請があった矢先、今でいうインサイダー取引の罪を被せられてあっけなく御用。
株価に影響を及ぼすかもしれない情報を、世間に漏らしてはいけないルールを破り、ある会社の新規事業の締結情報をリークしたとの罪で逮捕された。
その会社は、日本でも指折りの自動車メーカーで、昨今売り上げ自体は落ちていたが、若者からは人気の高いメーカーだった。その自動車メーカーが、アメリカのNO2自動車メーカーと経営統合、名前自体は両者ともに残すが、実質、世界一の自動車メーカーが誕生と言う締結内容だった。
これにより、その日本の自動車メーカーの株価は、締結情報のニュースが出てから、数日間ストップ高を連発し、なんと850円だった株価が5500円にもなった。
これをある日本の不動産会社の社長が、850円の時に買い集め、高騰直後に売却し数十億もの利益を上げたという。
親父はその件に付いて何も知らされていなかったし、その会社との取引も一度も無かったが、団魂世代の生き方なのか、検察でも警察にも何も言わなかったらしい。
ただ、その不動産会社の社長の娘さんが営んでいる、花屋さんを自社の社長が御贔屓にしていた事は知っていたから、余計な事は言えなかったのかもしれない。
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