第7話 パチリアム
日が下がり夕焼けが差し始めた頃、やっとの事で宿舎に着いた。数時間もの長旅の疲れか、晩御飯を食べた後すぐに僕は眠ってしまった。
翌日は自由行動━━街の外には出ていけないという制限があるけれど━━で、思いのほか疲れが取れたから適当に街を歩いてみようと思った……のだが、
「外はダメ」
「……ダメですか?」
「ダメ」
「……やっぱり……?」
「ダメ」
「もしかしても……?」
「ダメ」
「どうしたんですか?」
「「!?」」
突然後ろからクロムウェル先生に声をかけられて「ビクッ」とビックリする。
「戦力の事なら全くもって問題ないですよ。精霊フレイク様は精霊の中でも上位の精霊ですし、何より私がついて行ってあげますのでね。それとも、私がいても不安ですか?」
━━アテネさん、これでもまだ不安なのか……。
アテネの横顔を見ながらそう考える。
アテネが心配するのも無理もない━━と思う。昔戦力があった時に襲われて死にかけたのだから。だが今は違う。クロムウェル先生にフレイクもいるし、そもそも魔神国から離れているし大丈夫なはずだ。
アテネもその判断に至ったのか「……はい」と小さく返事をした。
「では行きましょう。家の中だけの小さな世界だけでなく、家の外の広い世界を見ることも大事ですよ。それに……」
クロムウェル先生はそこで言葉を切ると、大きく笑みを浮かべた。
「連れていきたいところがあるのですよ。」
僕達一行はクロムウェル先生に連れられ、宿舎を出て街に出た。広がる街並みはマリークと違ってほとんどが木だけで作られた建物が並んでいた。
道に並ぶ店には、マリークの大商店街にもないような品々が並んでいた。値段は安いようだが、全く使い道が分からない。
すると突然、クロムウェル先生かある店の前で歩みを止めた。店には馬に乗るための鞍のような物や、手綱のようなものがある。
「ふむ……。アテネ君、この中からワンセット、気に入った物を選びなさい。」
「え……?」
「もちろん費用は私が負担しますよ」
「で、でも……なんでこんなのがいるのですか?」
アテネが質問するとクロムウェル先生はニコリと笑って「後のお楽しみですよ」と言った。
━━馬でも借りるのだろうか……それならホウキを使えば良くないか……?
「ここは竜がいるんだよ。ドラゴンとも言うね。」
なんやかんや事を考えていると、フレイクが教えてくれた。
「……ってことはクロムウェル先生は竜を捕まえようとしてるのか……」
さすがクロムウェル先生……っていうかこれが来た目的なんだろうな。
「…………これにします」
どうやら普通の色? 茶色の鞍と、他よりも細い手綱を選んだらしい。
鞍と手綱をバックに入れ、クロムウェル先生率いる一行は街の外に向かった。
歩けば歩くほど森の木々は減り、だんだんと地面も砂と化していく。クロムウェル先生にどこに行くのかと聞いても「着いてからのお楽しみです」と言うだけで教えてくれない。なのでフレイクに聞いてみると、竜の群生地に向かっているらしい。なのでいざという時のために、クロムウェル先生がくれた剣をいつでも抜けるようにしておく。
そういえば、手綱とか持って竜の群生地に向かうということは、つまり竜を手懐けるということなのか? しかしなぜなんだ?
その時、「上を見てみなさい」とクロムウェル先生が空を指さして言った。
「!?」
「なに……あれ……?」
目線の先に大きな翼を広げて竜が飛んでいた。
「く、クロムウェル先生……あれは……?」
「あれは竜です。ドラゴンとも言いますね。ここが我々の目的地、竜の群生地【ドランコロニー】です。」
クロムウェル先生は少し間を開けると目を細め、懐かしむように言った。
「━━そして……そしてこの地域には、かの伝説の魔女、リリンテイル様の墓所があります。」
伝説の魔女、リリンテイル様。その御方は、ずっと昔テリアスが魔神国に攻められ、滅亡の危機にあった時にたった一人で魔神国の攻勢を止めて、さらに戦線をも崩し、一日で敵を壊滅させた伝説の魔女だ。しかし、そのような御方のお墓が首都から遠く離れたこの地にあるのはなんでだろう……。
するとその時、強烈な突風が僕たちにかかった。見上げると、そこには大きな翼が見えた。
「━━
誰かが呟いた。
ドラゴンは僕たちの上空を何度か旋回し、目の前に降り立った。
「何用だ。ニンゲン。」
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