第5話 研修旅行に行く。魔法で。

クロムウェル先生がきて一週間が経った。

この1週間いろいろあったけれど、特に大きい出来事は僕が魔法を使えるようになったのだ。もちろん基本魔法だけだが、これは僕にとって大きな変化であり、あの滅多に泣かないアテネが泣いたほどだ。

そんなこんなで、今日から僕達は遥か南方の大陸に研修旅行に行くことになった。


「さ〜て皆さん、今日から1週間、南方の大陸にて研修旅行に行きます。もう一度確認しますが忘れ物はありませんね?」

当日の早朝、まだ日が昇らないうちに門の外に集合した僕達は、もう一度荷物を確認する。

バックの中には通貨や食料などが入っている。これから行く場所は中海という名前の海を挟んだ、遥か南の国らしい。直線距離はテリアス大国の東から西までの距離程もあるらしく、海を超えるだけでも移動だけでどれだけ短くても半日以上かかるらしい。だからこそ忘れ物一つで死にも繋がりかねないのだ。

そういうことなので、じっくり3回確認してからバックを背負いなおす。

「それじゃあ今から南の大陸の国、大竜連邦【パチリアム】に向かうとしましょう。」

クロムウェル先生はそう言うと、僕達に背を向けて手をかざす。

「トランショネム」

聞きなれない術式を唱えると、クロムウェル先生が手をかざした先に大木たいぼくで出来ているのでは無いかと思うほど、大きなホウキが現れる。周りからは「すっげぇ!」とか「くっ……!」とか「わぁ……!」などなど、皆が色々な反応をしているけれど、僕はこの魔法の事を知っていた。

この魔法【ホウキ召喚】は、数百年前まで一般的に使われていた魔法だけれど、月日が経つにつれ国は発展し、ホウキを簡単かつ効率的に作成することができるようになり、現在ではこの魔法はごく一部の魔法使いにしか知られていないという。しかし、こんなにも大きなホウキを出した人は今まで読んできた本の中にはいなかった。

勉強になるな〜と思いながら大木のようなホウキを眺めていると、クロムウェル先生が「プロチェソゥス」と加工魔法を唱えると、大木のようなホウキの中身がくり抜かれはじめ、座れるように段差の形にくり抜かれる。

「皆さん。このホウキの中に入ってください。出発しましょう。」

そう言われ、僕達はホウキの中に座る。

ホウキの中は外から見た時よりも広く、足を伸ばせる程の幅がある。

クロムウェル先生は全員が座ったことを確認すると、

「それじゃあ出発しましょう。━━オペラティー」

操作術式を唱えると、巨大なホウキは動き出した。僕たちを乗せたホウキはどんどん早くなり、どんどん高くなっていく。

「おぉ……!」

初めてホウキに乗った僕は、そのスピードと高さに圧倒され感嘆する。

「皆さん、下を見てみてください。」

そう言われ、僕はホウキのふちを掴んで下を見てみた。

「すごい……!」

下には、周囲を頑丈な壁に囲まれ、中央に城が立つ魔法都市、マリークの街並みが広がっていた。視線を北に移してみると、豊かな自然に囲まれたテリアス魔法学院があるのも見える。名残惜しく思いつつも南に視線を移すと、そこには鮮やかな青をした海が広がっている。港に向かう船もあれば港から出港する船もあり、数え切れないほどの船がいる。

「まさに絶景、だね」

いつの間にか居たフレイクに囁かれる。

「そうだね……。やっぱりマリークは世界一の都市だよ!」

改めて僕は、この国が素晴らしいのだと思った。

「う〜ん、この程度の都市なら他にも見た事あるよ?」

そうフレイクが真面目な顔で茶々を入れてくる。フレイクは精霊の中でもかなりの長生きらしく、その分説得力があるからなんとも言い返せない。

「━━━━で、でもこの景色は綺麗!」

たっぷり時間をかけて返したけれど、明らかに論点が違う事を言ってるなと自分でも思う。

そんな僕にフレイクは「やれやれ……」というように首を振ってみせる。

その時である。東から魔法都市マリークを照らす光が差し込んだのだ。

日の出だ。

東側にある島からちょっとずつ顔を出し始めた太陽が、辺りの雲を照らし、この一時だけ見せる景色はまるで夕焼けのようで、太陽に照らされ始めた海がキラキラと反射し始める。

そのあまりの神秘さに、僕は身体が固まってしまった。

「━━論点が違うのはともかくとして、この景色が綺麗だということは同意するよ。」

その後、僕とフレイクはマリークが見えなくなるまで、ずっとその方向を眺めていた。


出発して何時間経っただろうか。日はすでにあがり、特に何も無い海の上をずっと進んでいる。

一切景色が変わらないと暇で暇でしょうがなく、こんなことなら本の1冊や2冊持ってくるべきだったと、ぼーっと前方を眺めながら後悔していた。

「はーい。そろそろ皆さん暇で暇でしょうがないでしょう。そこで精霊のフレイク様に何かしてもらいましょう。」

僕と僕の頭の上に乗っかっていたフレイクは、突然の提案━━いや無茶無茶ぶりに絶句した。

「「━━え……!?」」

しかし時既に遅し。僕と同じく暇を持て余していたクラスメイト達が僕達の方を向いたからだ。

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