第4話 大国の叡智

「とりあえず君達に魔法を見せる前に、それぞれ君達が今できる最高位の魔法を見せてください。順番は教室の席順、ハビリン君からね。」

ハビリン君は「は、はいっ!」と裏返った声で返事をしながら、1歩前に出る。


この後、皆中級魔法をクロムウェル先生に見せた。

「じゃあ最後にテリヤ君、君は今知っている最上位魔法の術式を言ってみてください。」

「え……? 僕が、ですか……!?」

僕はいきなり最上位魔法の術式を言えと言われて、ものすごく混乱した。

「いやいや。別に魔法を使えとは言っていませんよ。ただ、私はあなたがどれほど魔法について知っているのか。それが知りたいのですよ。」

僕は何だか試されているように感じて、どうせなら一番強い魔法を言ってやろうと考える。

「━━わかりました。」

「うん。それじゃぁ、どうぞ」

僕は右手を添えた左手を天に掲げ、軽く息を吸いて吐く。

目を瞑り、精神を研ぎ澄ませ、周囲にある魔力を感じ取り、左手に集中させる。


「━━世界を照らせし火炎、我が心に宿いし情熱の火よ。今宵、我が見に宿りて、その力を解放させよ!」

テルヤが聞いたことの無い術式を唱え、その影響か辺りの雰囲気が変わったようにアテネは感じた。

「ふ〜む。この術式は火属性最上位魔法【イーグニス・アンゲルス】だ。これを知っているとは予想以上だ……。アテネさんもそう思うでしょう?」

いつの間にか隣に立っておられたクロムウェル様に声をかけられる。しかし、クロムウェル様に話しかけられるのにも驚いたが、さっきの術式が扱いやすい火属性といえども最上位魔法の術式だなんて……。

そんな心情を読み取ったのか、クロムウェル様はアテネを見るとニッコリ笑ってこう続ける。

「昔【獄炎の天使 】と呼ばれな魔法使いがいてね、カレが得意としていた魔法なんだよ。」

本好きであるアテネですら知らない偉人を出されて一瞬「ムッ」としたが、相手はテリアス大国の叡智と呼ばれたクロムウェル様だと思い出す。

クロムウェル様はテリヤの方に向き直る。


━━予想の内だったが、やはり学院生が最上位魔法使うのを見るのは凄いもんだ。

最上位魔法は上位魔法や通常魔法とは違い、術式だけでなく周囲の魔力を感じ取ったり、モーションや心の集中など、様々なことを極めなければ、術式が言えても肝心の魔法は発動しない。しかしテリヤという少年はそれらを全て完璧にこなしており、通常ならばここで魔法は完成、少年の頭上には炎をまとった天使が現れるはずだが今だ出てくる気配はない。

それでもクロムウェルは少年に感嘆しつつ、最上位魔法を知っていた事を賞賛するべく少年に声をかける。

「最上位魔法を知っているとは素晴らし━━」

「━━我ら生命の根源である神水よ。今宵、多大なる力を解放し、友を癒し、敵を滅せよ!」

いつの間にか少年は左手を真横に伸ばして立っている。

「まさか……! これは【ルミナ・フォン・アクアス】……!」

その後も少年は何度もモーションを変え、全9属性の最上位魔法の術式を終えた。その間に、クロムウェルの表情は驚きや驚愕から歓喜に変わる。

「━━素晴らしい……!」

少年は両手を互いに握り神に祈りを捧げるような形にする。

「━━すいもくひょうこうやみいにしえより神より与えられしこれらの力。内に秘めた る力を外界にむけ解放せよ! リベレーション・ミシティリック!」

クロムウェルは想像した。もしこの魔法が使えたら━━と。いや違う。これがクロムウェルの夢であり目指すべき頂点、彼の師の再臨だったのだ。

薄れていたはずの過去の記憶が鮮明に蘇る。

恩師の顔、表情。恩師の仲間や、個性豊か多種多様の魔法。そして恩師の最後も……。

溢れ出る記憶の渦を感じつつ、クロムウェルは口を開いた。

「━━始まるぞ……世界の終焉と始まりが……!」

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