不治

 僕はあと少しで死んでしまうだろう。こんな事ならあの子にきちんと想いを伝えておくべきだった。


 君が笑いかけてくれたあの日の事を今も覚えているよ、桜が散るバス停でぼんやりと次のバスを待っている僕に君は話しかけてくれた。


 君はとても輝いていて、横顔の美しさに僕は息が出来なくなり、儚げな佇まいが眩しすぎて直視できなかった。




 君とはクラスも違う、人と関わる事が苦手な僕は教室の後ろの窓から空を見ていた。


 思春期特有の万能感と無力感を同居させて君と遊ぶ空想に耽った。羽根が生えた二人は空を自由に駆ける、悪い竜が現れて君をさらって行こうとする。

 命をかけて君の盾となり君の剣となるんだ。


 僕は君という姫を守るナイトになりたかった。


 高校に入学したお祝いに買ってもらったばかりの携帯の番号を交換したいと思ったけれどアドレスってどう伝えるんだっけ?

 でももしかしたら大多数の生徒と同じようにあの子もまだ携帯を持っていないかもしれないと思って聞けなかった。



 そんな毎日はとても幸せで心地が良かったのに、あの病気が僕を襲ったんだ。



 ただの微熱だったはずだ


 それなのにこんなに拗らせてしまって立ち上がる事さえ出来ない。


 僕の中で知らぬ間に膨らみ続けた"それ"は臨界点を超えてしまった。


 もう二度と君に会えないと思うと悲しくて堪らない、君を愛しているのに。


 君の笑顔を見る為なら何でも出来るのに、もう体が言うことを聞いてくれない。

 思いの強さが僕を縛り付ける鎖になってしまう。


 付けっぱなしのブラウン管のテレビから天気予報が流れている、明日も晴れるらしい。

 いつも見上げていた軽やかな空をもう一度見たいと思いながら僕はこんこんと深い眠りに着いた。


 …さようなら、愛しい人。




 **



 次の日僕の熱はすっかりとひいていて母親に


「あんたただの風邪で大袈裟なのよ。36.8度で学校休むなんて大袈裟!」

 と笑われた。





 そう、僕の心に救う病の名前は



 厨二病



 僕は君と話したいと思った。

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