僕と神様

「そうそうとても好きだったのに振られちゃってね、少し疲れちゃったんだ。」




 僕は目の前に現れた自称神様の男にそう言った。ここは校舎の屋上でもうすぐ夕日が沈もうとしている。



 同じクラスになった萌に一目惚れした僕は人見知りな事を忘れて連絡先を交換、猛アタックの末付き合う事になった。


「とても幸せでした、まるで夢のようで寝ても覚めてもフワフワと幸福に包まれる感じ貴方にも分かるでしょう?」


 と言ってから神にそんな感情があるのかと疑問に思ったが自暴自棄の僕はそんな事はどうでも良かった。


 *


 授業が終わりフラフラと屋上に来て何となく死んでしまいたいと希死念慮を感じた途端、目の前に冴えない中年男性が現れた。


 ヨレヨレのポロシャツを着ていてスラックスもアイロンがかかっておらず革靴も手入れがされているようには見えない。

 薄くなった頭髪を申し訳なさそうに撫で付けている。そして自分の事を生と死を司る者だと自己紹介するこの男に僕は不信感や恐怖感より先に興味を持った。


「私は生の使者、そして死の使者です。死者とはかけていません。

 生命を司っていまして貴方から死の匂いを感じたものですからつい来てしまいました。すみません、私はじめたばかりのもので強弱がまだ良く分からないんです。」


「強弱って何ですか?死に対する思いの強さって事ですかね?」


 ハンカチで汗を拭きながら司る者が答える。


「そうですそうです、今の感じだと思春期特有のメランコリックで喪失感によるあの感じですよね、そんな事で死んでしまうと一生後悔しますよ。」


「それは自分で死んでしまうと成仏出来ずに彷徨うとか言うあれで、ですか?」


 彼が答える。


「いやいや、後で冷静になって振り返るとしょうもなさと恥ずかしさを思い出して枕に顔をうずめながら足をバタバタさせる事になります、という事ですよ確実に。」


 小太りのおっさんが髪の毛を手ぐしで整えながら言う。


 確かに、と僕は思った。クラスメイトにあいつ二ヶ月しか付き合ってない彼女にフラれて死んだらしいと噂を流された日には死んでも死に切れない。


「何となくですから!別に本気で死にたいなんて思ってませんよ!」


 申し訳なさそうにおっさんがポツリと言う。


「別にこっちサイドとしては死んでもらっても良いんですが、総量は変わりませんし。」


 その言葉にゾワリとした、見た目がどうであれ、駆け出しとはいえ彼は本物なのだろう。


「それでは私は帰らさせていただきますが命は大事にした方がいいですよ、坊ちゃん。人間はいつでも死ねるのですから。」


「分かったよ、頑張ります。」


 気がつくと彼は消えていた。ヨレヨレのおじさんに励まされた僕は落ちていく夕日を見ながら大きく深呼吸をした。

 置いていた鞄を持つと階段を駆け下りる、身体が軽くなった様な気がする。今ならどこへでも飛んで行けそうだ。


 僕の命の蝋燭は今、明明と燃えている。

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