27話 少女と湖②

 私がウィルにお願いしたこと。

 それは、“探し屋”として、町での活動を許可してほしいという趣旨の内容だ。


「“探し屋”って……人を探すってことですか?」

「そう!人じゃなくても、動物や物でもなんでも!報酬は依頼が解決した場合に受け取る成果報酬型だから、依頼する側も気軽に頼めると思うの」

「なぜ突然そのようなことをしたいとお思いに?」

「えっと、なんでもいいから働きたくて……」

「つくづく変わってるよな、お前」


 目線が定まらない私に、ジュードが茶々を入れる。


「最初は週に3……いや、2回でいいから、宣伝活動とかで町に行くのに付き合ってほしいの!お願いします!!」

「……リリ様、ちなみに宣伝活動の具体的な方法や、相談をどこでお受けになるかなどアテはあるのですか?」

「そ、それはまだこれからだけど……宣伝のチラシ作って配ったり、組み立て式の椅子と机持ってって、路地で依頼内容聞いたり……?」


 この世界って道路使用許可申請が必要だったりするんだろうか。


 長めの溜息を一つこぼしてから、ウィルが半ば諦めたような顔をしてこう言った。


「熱意は十分伝わりました。ただ、路地で突然商売を始めて、俺みたいなのが背後にいたら誰も寄り付かないでしょうし、前に昼食で行った店覚えてますか?あそこは自由に求人なんかの書き込みができる掲示板があるので、空いてる時間帯なら多少の礼金を前払いすれば場所も貸してくれるはずです。俺もあくまで客を装えるので、相手も警戒しないかと」

「じゃあ…!」

「無茶だけはしないでくださいよ」


 そんなこんなで、私はジュードのお姉さんのお古に身を包み、“探し屋”という仕事を始めることにした。



 ◆◆◆◆◆



 最初こそ冷やかしで依頼してくる輩もいたけど、シャルロットで特訓した右手の能力を利用して、相手が強く思い浮かべてる物や顔を忠実に紙に描くだけで、相手の私に対する信用度が格段に上がった。


 もちろん、変に思われないように、先に相手の口から特徴を聞くのだけれど、そういう仕事は以前交番勤務してた時代にやっていたこともあり、得意分野だ。


 実際は人探しより、物を探してほしいという依頼のほうが圧倒的に多かったけど、それも丁寧にヒアリングをして、自分の足で探したり、有力情報や見つけて届けてくれた人に謝礼を出すという内容を、ウィルの顔見知りがいるお店にビラを貼らせて貰ったりしてかなりの実績を出せるようになった。


 そして“探し屋”を始めて三週間ほど経った頃。

 私の前にスキンヘッドの男が依頼人として現れたのだ。


「あんたが噂の“探し屋”か?」

「いかにも……何をお探しでしょうか?」

「探してほしいのは、俺の娘だ。年は……十ニだ。娘は生まれつき喋ることができない。昨日この町に着いて宿を借りていたんだが、朝気づくと姿が消えていた。早く見つけて連れ戻さないと……」

「それは心配ですね。わかりました。では、まずいくつかお伺いします。娘さんの顔についてですが、特徴的な部分はありますか?」

「と、特徴……そうだな、目は青くて二重だ。肌も白い。ああそういえば目の近くにホクロがあった」

「ホクロは左右どちらのどの辺りですか?」

「あ、えーっと……右……いや、左か?どっちかは忘れたが、目のすぐ横あたりに確かあった」

「……そうですか。では次に、テーブルの上に右手を置いて頂けますか?はい、では……その娘さんのことを強く思い浮かべてくださいね。エイサーホイサーナンマンダブナンマンダブ」

 私は相手の指先を握り、左右にブンブンと振り回した。もちろんこの動きに意味はない。


 ……やっぱり。怪しいと思ったのよ。


「な、何か魔力で見えたりするのか?アンタ……」

「オホホホホ……見えるというほどでは……まだまだ修行中の身。靄の中でうっっっすらと娘さんらしき影が脳裏に浮かぶだけでございます。私はこれから娘さんを探しに参りますので、明日の同じ時間にこの場所で進捗を報告させて頂きます。それではこれにて失礼!」


 店を出て少しすると、近くの席で見守っていたウィルが後を追って話し掛けてきた。


「今日はまた随分とお急ぎですね」

「まぁね。なんとしてもあの男より先に見つけないと」

「……どういうことですか?」

「娘を探してるだなんて大嘘よ。この付近で身を潜められそうな場所、片っ端から探していきましょう」


 ことの深刻さを理解してか、王宮にいる騎士団の団員にも手伝わせるというウィルの提案を受け、私たちは一度王宮へと戻る決断をした。

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