17話 劇団☆ぶるーの②
ボリューム満点なランチを食べ、王宮に戻ると、正面口で騎士団の団員さんたちがなにやら集まって話し込んでいた。
「何かあったのか?」
ウィルが話し掛ける。
「団長!そ、それが……劇で使う予定だった手鏡が大広間からなくなったらしく……」
「なに?」
「準備とリハーサルに影響がないよう、俺達で探してほしいとマチアス様が……」
「わかった。俺も探しにいこう」
「わ、私も…!!」
マチアスにはまだちょっとムカついているところもあるけど、困っているなら手助けはしたい。
「言っても聞かないですよね」という目をしたウィルと、久々のバディで手鏡探しが始まった。
◆◆◆◆◆
「部外者は入退室してないんですよね?」
まず、大広間入口の警備をしていた近衛兵の二人に聞き込みをする。
「はい。二人で見張ってましたが、今日は劇団の方以外は出入りしていません」
そうすると劇団員の誰かが持ち出した……?
でも一体なんの目的で?
その後も聞き込みを続けながら手鏡が落ちてそうな場所を探したけど、結局王宮内で手鏡は見つからないまま、歓迎会が行われる時間になってしまった。
準備のため、ウィルとは一旦別れて部屋に戻ると、シャルロットが浮かない顔で佇んでいた。
「何かあった……?」
「あ、いえ。大したことではないので」
昨日からあんなにはしゃいでいたというのに、今日はどうしたんだろう。
朝は普通だったよな……。
「リリ様が髪を下ろされてるなんて、珍しいですね」
「え!?あ、そうかもね!ちょっと気分転換したくて!」
「素敵です。私、寝る前にリリ様の髪を梳かす時間が一番好きなんです。とても綺麗な黒髪で、触っているだけで幸せな気持ちになります」
改めて言われると照れてしまう。
今日くらいは着ていくドレスも全部シャルロットにお任せしてみようかな。
それで少しでも元気になるなら、お安い御用ってもんよ。
◆◆◆◆◆
「や、やっぱり派手じゃない!?」
「ぜんぜん!そんなことないですって!」
『今日は全部シャルロットに任せる!』と言ったはいいものの、ドレスもメイクも気合い入り過ぎてません!?
今言えることは、マスカラが重い……。
鏡見たら途中で「ストップ!」と言ってしまいそうだったので、あえて何も見ないことにした。
ドレスもいつもは露出の少ないものを選んで着ていたけど、今の流行は胸を上に盛って、横から見ると平らになるスタイルのドレスらしい。
イエローの生地なのもあって、腰から上を白玉が2つちょこんと上にトッピングされたクレープみたいな気分だ。
大きく開いたデコルテを隠すストールなんて野暮なものは即却下された。
「こんな格好で浮いたらどうしよう……」
「保証します。絶対大丈夫です!劇団には多くの美男子がいらっしゃいますが、これなら闘えます……!」
いや、別に美男子と闘う必要はなくないか?
でもシャルロットは満足気だし、ウダウダ言わずサッと行って隅っこで食べて帰ってくるだけよ!
ついでにウィルと聞き込みが出来たら尚良し!
「私も給仕係として先におりますので、お化粧直しなどする時は言ってくださいね」
「わかった。じゃあまたあとで」
こうして歓迎会が行われる時刻を迎え、王宮中央の二階、空鏡の間へと私は向かった。
◆◆◆◆◆
「おい」
「ウチにいたか?」
「何者だ?」
入るなりコソコソと話しながらこちらを見る視線に縮こまる。
どうぞ、お気になさらず歓談を続けてください。
空鏡の間は、主に舞踏会で使われるホールということだけど、今日は立食形式ということで料理の置かれた丸テーブルが6つ用意されていた。
まだ人はそんなに集まってない様子だ。
むしろ聞き込みするなら今がチャンス?
「リリ……様!?」
入口付近で振り返ると、ウィルが驚いた顔で立っていた。
「いやー噂の女神様ですね!お会いできて光栄ですー。いやはやなんと美しい」
ウィルの隣のどことなく狐っぽい男性が、隊服に手を当て挨拶をしてくれた。……大袈裟なお世辞付きで。
「オリバ・ハミルトンと申します。王宮騎士団の副団長を務めさせて貰ってます」
「は、はじめまして!私のことはどうぞリリとお呼びください。副団長さんなんですね」
「はい。意外と副団長って板挟みになることが多くて大変なんですよ。時には団長の悩みを聞いたり……」
「オリバ!余計なこと喋ってないで持ち場につけ!」
「おお怖っ。では残念ながら邪魔者は退散しますね。リリ様また」
なんていうか、ちょっと変わった人だな。悪い人ではなさそうだけど、飄々としてあるというか……。
「あいつには後でちゃんと言っておくんで……」
「ん?私なんか言われた?」
話が噛み合わない。
「……あ、いや、先を越されて勝手に俺がムカついただけです……」
「先を越された……?」
ますますよくわからない。
「……今日はその、いつもの雰囲気と違って……綺麗だと。っ違うんです!普段が綺麗じゃないということではなく、一日に二回もこんなことがあると褒め言葉の引き出しがなくて、言うならばお昼は“可愛い”、今は“美しい”という感想です!!」
「……あ、ありがとう」
一生分の褒め言葉を貰ってしまった。
「で、では俺も仕事があるので失礼します!」
ぽーっとしてしまって、意識を引き戻すために古典的ながら頬をつねってみる。
ここに来てから夢みたいなことがずっと続いているけど、こんな夢なら悪くもない。
「リリ様、こんな入り口の前でどうされ……って、お顔が赤いです!大丈夫ですか?」
「だ!大丈夫だよ、シャルロット」
ウェルカムドリンクを一通り配り終えたシャルロットが近くに来てくれた。
来て早々だけど、夜風に当たりたい気分。
「頬紅もう少し薄くても良かったかもしれません。あちらの化粧室で少しお直し致しましょう」
とりあえずクールダウンできるならどこでもいいや、とシャルロットについていく。
「こんなこともあろうかと、ポケットに白粉やブラシ、あと最近若い娘たちの間で流行ってる、炭のあぶらとり紙も入れてきたんです!あれ?他に何か持ってきたかしら……」
他に誰もいない二人きりのパウダールーム。
そこで覚えのない物が手に触れた顔で、シャルロットが取り出した物。
それは小さな手鏡だった。
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