『現実での自分』

『4』


「おはよー」

「おはよう」


なんとなく挨拶を返す。

最近、ようやく慣れた人にだけ挨拶ができるようになってきた。


あいつは相変わらず朝自習のテキストを配り終えたらその子と楽しそうに会話をする。

周りの女の子と楽しそうに話してる。

私のときはからかうように、見下した感じなのにね。


それを見ているのが耐えられなくって、少し早めに放送室に向かった。



放送室はエアコンがあるわけじゃないから、夏は扇風機をつけて対処している。

冬はちょうどよく暖かくて、出たくないくらい快適な場所。


ここなら、窓があるけど一人でいられる。

誰かの声が遠くで聞こえるけれど、放送室の中だからか内容もあまりわからない。


朝の音楽を流して、放送をする。

今度から機材が増えて朝は自動になるから、これが最後の朝の放送だ。

でも、そうなれば逃げられなくなってしまう。


楽しそうなあいつを、遠くから一人で眺める羽目になる。

それは嫌だ。


それなら、トイレにでもこもって自分を傷つけ続けるの?

それでもいいけど、トイレは一年生の教室の前だからね。



長く考え込んでいたら、気が付けば放送は終わっていた。

自分でも、どうやって終わらせたか、何を言ったか、記憶がなかった。


明日から夏休みで、あいつと会うことはない。

なにもかもブロックしたし、あの声ももう聞かなくて済む。

見下されなくてもいいし、陰口だって言われない。


なのに、それが悲しくて仕方ない。

教室にだって戻りたくない。


半年前には私にだって、あんな風に話しかけてくれたはずなのに。

まだ、ツンデレで通る優しさときつさだったのに。


三年生になって、クラスが変わって急に変わったね。

私も変わっちゃったよ。

仲がいい子ばっかり集まってる中、私は一人になるの。


親友は席が近い同じ部活の子と話をしてるよ。

友達もみんな、他の友達と話してる。

私って、そんなに話しかけづらいかなあ。



そっか、腕にこんな傷があるからダメなのかな。

そりゃ辞めたいけど辞められないからさ。


じゃあ見えないところにしよう。


嫌われたくないから、愚痴だって聞くよ。

私にできることはなんだってするよ。

がんばって痩せるし、顔も頑張るよ。


だから、嫌いにならないで。

私が必要だって言ってください。


誰かの代わりじゃ嫌だよ。



私は俯きながら教室に帰った。

前はあまり見れなかった。


教室に帰ればさっきよりも人が増えていて、あいつも一足早く朝自習を始めていた。

ああ、人がいると話さないんだね。

幼馴染だとか、部活が一緒だとか、そんなの強すぎる。


昔ちょっと席が近くて、ゲームが好きってだけだった私は、負け組だ。

あいつが好かれてなかったにしても、好いてるってのはありえるし。


ねえ、もう別れたってことになってるの?

どうしてそんなに私が嫌いなの?


聞きたいけどどうせ聞けやしないから、考えるのをやめて大人しく朝自習を始めた。

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