第11話 今後の恋愛について話した
何よりそれを聞かされている私は微妙な気持ちだ。2人に挟まれて、延々と自分に関する言い争いを聞かされている。ヒロイン気取りであれば、私のために争わないでと言うべきシーンだろう。
「‥‥?」
私はハンナを見て気づいた。ハンナが苦しそうな顔をしているし、声もとぎれとぎれになっている。
「ですから、わたくしはカタリナ生徒会長にお願いしたいことが‥‥」
「ハンナ、ちょっと一回外に出よう」
私はベッドから立ち上がって、ハンナに手を差し出した。
「え‥?は、はい」
ハンナは少し驚きながらも私の手を握ってベッドから立ち上がろうとするが‥‥ふらふらした足取りになっていた。私の手を、すがりつくように引っ張っている。
「ハンナ、大丈夫?」
「大丈夫で‥‥す」
「よしよし。お姉さん、話の途中で悪いけど、ハンナと2人で話したいことがあるから」
「‥分かったわ」
カタリナは不機嫌そうに返事すると、小さくため息をついた。
◆ ◆ ◆
私はハンナを引っ張って、部屋から出た。ドアを閉めてカタリナの姿が視界から消えると同時に、ハンナが私の手を離して、ふらり、ばたんと地面に倒れ込んだ。
「ハンナ、大丈夫?」
私が廊下にしゃがんで聞くが、ハンナは苦しそうに顔中から汗を流していた。
「わたくしは、大丈夫で‥‥す」
「全然大丈夫じゃないよ。ハンナ、押しに弱いのに無理するから。部屋に戻る?」
「心配してくださり、ありがとうございます‥‥ですが、今ここで引くと、永遠にユマさまと付き合えなくなる気がいたします‥‥」
そう言ってハンナは無理に上半身を上げようとした。がくがく震えていたので、私は「やれやれ」と言って、ハンナの体に浮遊魔法をかけてやった。月は重力が弱いからかけすぎに気をつけなければいけないのだが、私はほどよく魔力を調整できるようだ。
「このまま2階の経屋に戻るよ」
「ま‥ってください、話はまだ途中でございます‥‥」
「私が何とかするから、ハンナは休んでいて」
正直、自分の奪い合いに関する仲裁を自分がするというのもおかしな話なのだが、できそうなのは自分以外に思いつかなかった。あとは、アユミくらいだろうか。
「ハンナの気持ちをアユミ先輩に伝えていいなら、アユミ先輩も呼んで一緒に生徒会長と話すけど」
「‥‥分かりました、ユマさまのご都合のいいほうでお願いします」
「分かったよ」
私はハンナを横に浮かべて、奇異の目で見る先輩たちをよそに、2階の自分の部屋へ戻った。
部屋ではレイナが1人で何か勉強をしていた。私はハンナの体をベッドの上に乗せると、「大丈夫だからね」と言って、それからレイナに伝えた。
「レイナ」
「何?」
「ハンナが体調を崩しちゃったから、悪いけど見てくれる?私は用事があるから」
「分かったわ」
レイナはこれまた不機嫌そうにうなずいて答えた。
「勉強中にごめんね、お願い」
私は手を合わせて、そのまま部屋を出た。
◆ ◆ ◆
私はアユミと一緒に5階のカタリナの部屋へ戻った。
「おまたせしました、カタリナ生徒会長」
「待ってたわよ」
カタリナは腕を組んで、ベッドの上で座ったままだった。
「‥その人は?アユミじゃない」
「お邪魔します」
アユミが礼をすると、カタリナは「‥‥まあ、座って」と言った。表情は明らかに不機嫌そうだった。カタリナが「ユマの隣に座らないで」と言ったので、カタリナを挟むように私とアユミが座った。
「事情はユマから聞きました。私から提案ですが」
私たち後輩と話すときのアユミは元気そうにしているが、カタリナ生徒会長と話す時は礼儀正しく丁寧に話すようだ。やはり上下関係は厳しいのか。
「ハンナと2人で競争してみるのはどうでしょうか?」
「競争?」
「はい。まず、ユマは2人と同時に付き合うんです」
「ええっ‥」
思わず私が声を漏らしてしまった。
「それでユマには1年後にどちらか1人を選んでもらうんです、もしくは選ばないということもできます。どう、ユマ?」
アユミがカタリナの体の向こうから首をぴょこっと出して私に尋ねてきた。確かに私はカタリナからの告白を承諾してしまって、でも私がカタリナに恋心を抱いていない以上これは恋愛とは言えなくて。何だろう。私は百合についてあまり理解がないので、アユミの言うとおりの適当な感じでの付き合い方でもいいんじゃないかと思ってしまった。でもカタリナは私のことを恋人だと思っているだろうし、私と交際しているつもりだろうし、やっぱり不快に思われるだろう。そう思ってカタリナの顔を覗くと、案の定唇を噛んで不快そうにしていた。
「ユマは私の恋人なの‥」
いつも姉らしく先輩らしく上品に振る舞っていたカタリナが露骨に感情をあらわにするのを、私は初めて見たかもしれない。
「何年も何年も我慢して、やっとお試しとはいえわたしのものになると思ったのに‥」
「ユマに聞こえてますよ」
アユミに諌められたカタリナの手はかくかく震えていた。
「カタリナ生徒会長」
見ていられなくなったので、私は発言した。
「私、男女の間はわかるけど、女同士の恋愛なんて初めて聞きましたし、友情と恋愛の区別がまだできないんです。こんな状態で付き合ってもカタリナ生徒会長に迷惑をかけるだけですし、あの、二股はよくないので一度別れて、カタリナ生徒会長やハンナと一緒に百合の勉強をしてから決めたいです」
私は立ち上がって、カタリナが何か返事をする前に思いっきり頭を下げた。
「申し訳ございません、カタリナ生徒会長。この関係はいったん解消させてもらいたいです」
全ては私の優柔不断な判断が招いだ失敗だと思う。百合がわからないなら、はっきり断ればよかったのだ。他の人に告白された時に、どうすればいいか分からなくなってしまう。私は反省した。
「‥じゃあ」
と、カタリナが言った。
「私の卒業までに決めてくれるの?」
「‥‥はい」
私は顔を上げた。が、カタリナの目から涙がぽろぽろ流れているのを見て、また頭を下げた。
◆ ◆ ◆
廊下を歩いて下の階に戻る時、私はアユミから叱られた。
「私も百合はわからないから男女の恋愛のつもりで対応したけど、ユマのはちょっと男女同士の関係だと考えるとひどかったかな。昨日告白されて一度はOKしたのに、その次の日に振ったわけだし」
「‥‥」
「女同士とはいえ恋愛は恋愛だから、男女同士の関係だと思って対応したほうがいいかなと思う。今日振るくらいだったら、最初から断ればよかったんじゃない」
私には返す言葉もなかった。私の大好きなお姉さんを傷付けてしまったと思う。
明日のデートでもし挽回できたらしたいのだが、そもそもカタリナは明日のデートをドタキャンしたりないだろうか。その可能性が私の頭をよぎった。もっともカタリナはそんなことをするような人ではないのだが、なんだかもやついてしまう。
がっくり肩を落として自分の部屋に戻ると、すでに回復したのか、元気になっていたハンナが私に駆け寄ってきた。
「ユマさま、話し合いの結果はどうなりましたか‥?」
何かにすがりつくように必死な表情だった。アユミにも叱られた以上、嘘はつけないと思った。
「私、カタリナ生徒会長を振ったよ。カタリナ生徒会長が卒業するまでに、付き合う相手を決めることになった」
「ユマさま」
ハンナの表情が一瞬緩んだように見えたが、改めて固い決意をしたのか、ハンナはぎゅっと手を固く組んだ。
「わたくし、負けませんから。きっと、ユマさまのよき妻になってみせます」
「面と向かってそう言われると萎縮しちゃうな‥‥」
私は控えめに笑って返した。私は、まだ事の重大さを理解できていないのかもしれない。
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