エピローグ
「聞こえてるかな。ちゃんと見えてる?」
『バッチリ問題なし』
私はその日、久しぶりに配信の準備をしていた。
なにぶんブランクがあるため、リハーサルとして準備配信を協力者と共に進めていた。
──明日のAM10:00より、活動を再開します。
元々の片瀬春歌としてのSNSアカウントを久しぶりに更新すると、大勢の人からのリアクションがあった。
SNS上の知り合いの人々からの歓迎のメッセージや、拡散や引用が相次いで、一気に注目度が高まった。
再開するに当たり新曲も用意し、最初の配信で言うべきことも固まっている。
家代わりだったネットカフェは引き払い、今は自宅に戻っている。
ちなみに部屋のWi-Fiは、電源ケーブルが抜けかけていただけで故障ではなかった。
人が家出するなんてその程度の理由だし、戻るのもまた然りだろう。
もともとSNSで関わりがあった人に加え、活動を通して新たに知った人々からの注目も浴びる配信となっている。
「大丈夫かなあ。また炎上しないかな?」
『大丈夫だよ。私も見てる』
「うん、見てて」
と、会話アプリで通話しながら準備を進めていく。
相手は今は相棒ではなく、一人の友人となった年上の女性となる。
もう会うこともない相手だが、ネットワーク回線を通して話さないとは言っていないのだ。
若干バタバタとしつつも、配信の準備が整った。
「じゃあ始める」
『活動再開だね。ガンバレ』
うん、と答えて通話を締めくくる。
配信開始の操作をすると、一気に視聴者たちからのコメントが流れていく。
重ねてだが私は人と話すことが得意ではない。
だが活動で関わった相棒がやる流ちょうなMCを、自分なりに真似したいと思った。
今日のために用意した歌を歌う前に、私は一言だけこう告げた。
「今日は姉さんのために、歌います」
〈春の雪 完〉
春の雪 佐原 @tkynzt
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ふたりは40代/佐原
★0 エッセイ・ノンフィクション 連載中 11話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます