第3話
「パール、何をしでかしたのですか!?」
青ざめた顔でパールの母親は叫んだ。
「急に何ですの? お母様」
「お城から呼び出し状です。明日の午後、ランド家に迎えの馬車をよこすので、パール一人でそれに乗るようにと書いた手紙が届いています」
パールも青ざめた。
「ええ!? 私何も……」
一つだけ思い当たることがあった。森で出会った、王子と同じ名前を名乗った青年のことだ。もしかしたら、詐欺でも働いていたのかも知れない。
パールは緊張しながら、母親に答えた。
「私、一つだけ思い当たることがあります。ですが、私は悪いことはしておりませんわ。ご安心下さいませ、お母様」
「そうですか。では、一番上等なドレスを着て行きなさい」
「はい、お母様」
翌日、パールの心模様のように空は曇っていた。
「馬車が来ましたよ、パール。ご無礼の無いように気をつけるのですよ」
「はい、お父様、お母様」
パールは一人、馬車に乗り込んだ。
馬車は王宮に向かって走って行った。
「やっぱり、王子様と同じ名前なんて名乗るから私まで呼び出しがかかってしまったのではないかしら。大丈夫かしら、アンディ様」
パールが一人呟きながら考えていると馬車が止まった。
「パール・ランド様、着きましたよ」
「ありがとうございます」
パールは馬車を降りると、王宮の応接室までメイドに案内された。
「それではこちらでお待ちください」
「ありがとうございます」
メイドが部屋を後にすると、パール一人が応接室にぽつんと残された。
「おまたせいたしました」
「え!? アンディ様!?」
「はい、パール様」
アンディは、あのアンディだった。パールは口をあんぐりと開けてしまった。そのパールの表情を見て、アンディは愉快そうに笑った。
「あ、あの、失礼致しました。本当に王子様だったのですね」
「はい。貴方の推理はとても面白かったですよ」
「お恥ずかしい限りです」
パールは真っ赤になって俯いた。
「スコーンと紅茶をお持ち致しました」
執事が入ってきて、アンディとパールの席にスコーンと紅茶を置いた。
「立ち話も何ですから、座りませんか? パール様」
「……はい」
パールは言われたとおりに座った。
「それにしても、何故、呼び出し状なんて。心臓が止まるかと思いましたわ」
「それは申し訳ありませんでした。貴方の想像力をかき立てられるかと思って、ちょっと意地悪をしてしまいましたね」
アンディは紅茶を一口飲んで、話し始めた。
「忙しい仕事の合間に、森で休憩をしていたのは本当ですよ」
パールは税金が高いと言ってしまったことを思い出し、冷や汗をかいた。
「私、政治なんて分かっていないのに税金が高いなどと申し上げてしまって……」
「ああ、それは気になさらずに。余分な出費を抑えて、すこしでも税を安く出来るよう工夫しようと思っただけですから」
「そうですか」
パールはため息をついてから、紅茶を飲んだ。
「それで、今回の呼び出し状では、どんな物語を想像していたのですか?」
「アンディ様が偽物と分かって、事情を聞かれるのかと思いましたわ」
アンディは面白そうに笑った。
「本物だと分かって、どうですか?」
「もう、心臓が止まりそうでした」
パールはアンディを見つめて、一生懸命訴えた。
「また、空想の話も聞かせてくださいね」
「はい」
「それでは、スコーンも食べてください」
「いただきます」
パールはアンディ王子の気さくさに心を奪われていた。
「森へはもう来ませんの?」
パールの問いかけに、アンディは直ぐに答えた。
「行きますよ」
「それでは、森でお会いしましょう」
「いいですね」
パールはお茶会を終えると、また馬車でランド家まで送ってもらった。
「お父様、お母様、ただいま戻りました」
「おかえり、パール。大丈夫でしたか?」
「ええ。お父様、お母様。大変楽しいお茶会でした」
パールはまた、森でアンディと色々な話をしたいと思っていた。
森を散歩してたら落ちていたのは王子様でした 茜カナコ @akanekanako
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