第8話

「……。」


場がシンと静まり返る。誰もがこの急展開に頭が追いついていない様子だった。しかし無理もない、なんせ張本人の私がそうだからだ。


「わ、私、一体…。」


自分の両手を見下ろす。あの術式は、記憶を失う以前に習得した魔法なのだろうか。しかし、肝心の過去については何一つ思い出せていない。


「シノン、君は…。」

「疑問は後!まずは彼女を助けなきゃ!」


レナの一声でその場の人間は我に返る。そうだ、瓦礫の下敷きになっている女性を早く救出しなければならない。皆が近付き撤去しようとするが、大きい瓦礫が幾層にも折り重なっている様だった。これでは下手に手を出したら崩れてしまうかもしれない。


「どうしよう…。」


その時、また頭に術式が飛び込んできた。成程、これならいけるかもしれない。


「あ、あの、ちょっと退いて貰って良いですか…?」

「あ、ああ…?」


困惑しながらも左右に避けてくれた人達に感謝しつつ、私は手のひらに魔力を集中させる。


「…はあ!」


掛け声を放った瞬間、瓦礫の下に魔法陣らしきものが刻まれ、そこから勢いよく水が噴き出した。それはさながら噴水のよう。水圧で宙に浮いた瓦礫を呆然と見ている人達に、「今のうちです!」と声をかける。そして女性は無事救出された。私は魔力の供給をやめて魔法を解除する。


「もう大丈夫、回復魔法をかけますね。」


レナが女性の体に手をかざし、治療を図る。これでもう大丈夫だろう。


「…色々聞きたいことはあるけれど、とりあえずシノン、君のお陰で助かった。皆が無事なのはシノンが居たからだ。本当になんてお礼を言ったら良いか…。」


フォナドが私の傍に来て、深々と頭を下げる。それを見て私は思い切り首を横に振った。


「顔を上げて!私は皆に助けられたのよ?寧ろ、恩を少しでも返せたみたいで良かった。」

「いや…十分すぎるよ。」

「積もる話はあるだろうが、お喋りはそこまでだよ。まずは状況を確認しようじゃないか。」


村長の言葉に皆が一様に気を張り詰める。そうだ、残りの魔物はどうなっているのか。それに、何故村を襲撃したのか、あの大きな二頭魔物はなんなのか、何故私を狙ったのか…。疑問点はいくらでも見受けられる。


「フォナド、あんたは戻って残党を討伐してくれ。レナは他に怪我した人間の手当だ。そしてシノン…お前は、万が一の時のためここで魔物に備えてくれ。」

「はい!」

「分かりました!」

「任せてくれ。」


それぞれが持ち場につき、役割を担う。何かが動き始めたような感覚に苛まれながら、私はお守りを取り出し魔物への警戒を強めた。

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