第7話
その存在の襲来は、あまりにも唐突だった。
「キャーッ!?」
壊された壁。下敷きになった女性。飛び交う悲鳴と逃げ惑う人々。
「グルルッ…!」
それは、二つの頭を持った狼だった。全長は私の三倍程もある。足元には瓦礫と、その下敷きになっている女性。呻き声をあげ、何とか逃げ仰せようとする。ダメだ、今動いては魔物の気を引いてしまう…!
(…あれ?)
しかし、魔物は興味が無いとでも言うようにその場を離れ、こちらへと向かってきた。ゆっくり、その目に私を映しながら。
「う、そ…。」
腰が抜ける。そのままへたりこみ、ゆっくりと後ずさる事しか出来ない。
「嫌、来ないで…っ!」
この感覚…何処かで…。
「こぉらぁ犬っころめっ!その子に手を出すんじゃないよ!あっちへ行きな!しっしっ!」
その声にはっと意識を現実へと引き戻される。怯え慄く私をよそに、村長は勇敢に立ち向かい、手の中の杖で牽制する。
…彼女は、私を助けようとしてくれているのだ。狙われたら年寄りである村長が攻撃を避けるのは難しいだろう。あれだけ聡明な人が理解していないはずがない。だが、それでも私を助ける事を選んだ。なのに、私はただ…。
「…っ!村長さんには、指一本触れさせない!」
「馬鹿!前に出るんじゃないよ!」
何故だか、先程までの恐怖は消えていた。いやまだ怖いのだが、それでも立ち向かえない程ではない。なにか、見えない力が湧き出てくる感覚に見舞われた。
(…これは?)
頭の中に、術式が浮かんでくる。氷属性…アイス…?
「グオアアアアッ!」
魔物が咆哮をあげながら、私と村長に噛み付こうとする。私は咄嗟に手のひらを前に翳し…。
「皆!大丈夫か!?」
「貫け…アイスランス!」
フォナドが扉を蹴破って室内に飛び込んでくるのと、私が魔法を発動させるのはほぼ同時だった。
「グギャアアアアアッ!」
「な…。」
複数の太く鋭い氷の槍が、魔物を無惨にも貫く。予期せぬ攻撃に、敵は避ける暇もなく…。
ドタン…ッ。
そのまま、体を傾かせ、絶命した。
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