第6話
「フォナド!そっちに行ったぞ!」
仲間の呼びかけに後ろを振り向く。狼型の魔物がその牙を俺に突き立てようとしていた。だが…。
「悪いね、全部お見通しだよっと!」
右手に持った剣を横に凪ぐ。そのまま魔物の首は吹っ飛び、少し離れた地面に転がった。
「か〜っ!相変わらず強いねぇ!」
「流石、Aランク冒険者。」
周りがそう騒ぎ立てる。持て囃されるのも悪い気はしないが、後にしてくれ。切実に。
「今は目の前の敵に集中しろ!」
「ああ、そうだな!」
冒険者と言っても、俺は各地を冒険して回っている訳では無い。ギルドに登録している人間は便宜上、そう呼ばれるだけだ。実際には様々な役職に分かれている。俺の場合は守護戦士…他を守り、敵と戦うのが仕事だ。勿論、ギルドから回される依頼内容も職に殉じたものが多くなる。
(後でギルドに報告しないとな…。)
とは言え、此度の襲撃は依頼でもなんでもない、言わば不測の事態だった。この様なパターンはギルドに報告する義務がある。そして問題解決に当たった場合、活躍に応じて相応の報酬が渡される。命の危険という一点のみ目を瞑れば、冒険者は割かし良い職種なのだ。
「ま、万年人手不足なんだけどな。」
呟きながら、二体の魔物を斬り払う。この国の冒険者の割合はそこまで多くない。故に、どうしても手が回らない事もままあった。特にAランクともなれば、ひとつのギルド支部に二人いれば上出来な程。
「はあっ!」
俺が剣を振れば、一匹また一匹と魔物の体が崩れ落ちる。正直このレベルだったら取るに足らない。しかし問題は、敵が一方向から攻めてきている訳では無いという事だった。倒すのは容易だが、俺の体はひとつ。別の場所にいる魔物を同時に相手取るのは不可能だった。
「はあ、こんな時、魔術師がいてくれたらなあ。」
俺は殆ど魔法を使えない。使えるのは武器に力を宿す付加魔法のみ。魔術師のように複数体を一度に攻撃などは出来ない。だからこそ、この数の魔物に手間取っていた。
「まあでも、非戦闘員は集会所に避難しているはずだし、大丈…。」
ドオンッ!
言い終わる前に、はるか後方から破裂音がした。
「んなっ!?」
「まさか…あの方角はっ!」
集会所……。誰かがボソリと呟いた。その声が耳に届いた瞬間、俺は飛び跳ねたようにその場から駆け出す。あそこには、村の皆がいる。そして…シノンも。
「くそっ、間に合え…!」
もしかしたら過去最高レベルの速度で走っているかもしれない。珍しく息が乱れている。だが、そんな事はどうでも良かった。
「皆…!シノン…!」
遠くにうっすらと見えている建物を目指し、俺はひたすら駆けた。
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