第5話

村長の家にお世話になり始めてから、早くも二週間が過ぎた。最初こそ体力が落ちていて、立ち上がるのも苦労したが、今ではもう何不自由なく動き回れる程に回復している。


(それにしても…魔石かぁ。)


まさか思念を遠くの人に伝達したり、火を起こしたり出来るなんて。そう、手の中にある小さな石を見つめながら思う。どうやら殆どのものが使い捨てらしいが、魔法が使えない人間もこれを持って念じるだけで効果を発揮させられるらしい。


(でも、魔物をやっつけるような魔石はないんだよね。)


ない、というか、流通していないが正しい。一般人が容易に手に出来てしまえば、最悪犯罪に使われる可能性もあるからだろう。それこそ、人を殺めかねない恐ろしい凶器となる。


「…何ぼーっとつっ立ってるんだい?」

「わあああっ!?」


後ろからいきなり話しかけられて、変な叫び声をあげてしまった。村長は本当に神出鬼没だ。いや、ここは村長の家なのだからその言い草も違うかもしれないが。


「ふん、今日はいよいよ村を出る日だろう?ノロノロしていて良いのかい?」

「わ、分かってます。ちゃんと準備は終わらせました!」


そうなのだ。今日はとうとう、この村と別れを告げる日…。そして、色々教え、世話を焼いてくれた村の人と顔を合わせる最後の機会の日でもあった。


「なら良いが…。まあ、お前が家事を手伝ってくれて助かった事もなくはない。これは駄賃だ。持っておいき。」


そうして差し出されたのは、綺麗な水色をした魔石がついたお守りだった。


「これは…。」

「近くにいる者の敵意を探知する魔石だ。他のと違って、使用しても壊れない。まあ、気をつけて街に行くんだね。」


言葉と態度は素っ気ないが、内に秘められた気遣いと優しさを感じた。思わず涙腺が潤む。


「あ、ありがとうございます…!このご恩は、一生忘れません!」

「…ふん。」


温かい空気に包まれたその空間は、しかしすぐに切り裂かれる事となる。


「村長!大変だ、魔物の群れが村に迫ってきている!」

「何だって?」

「数はおよそ30と言ったところか…。今、フォナドを中心に腕のたつ者が討伐に当たっている。でも、流石に侵入を防ぎ切れそうにない。」


それを聞いて恐れが全身を駆け巡る。この平和で温かな村が、魔物に狙われている…?そんな、一体どうして…。


「慌てるんじゃないよ!シノン、お前の旅立ちは後だ、今すぐ村の集会所に行くよ!村人をそこに集める。あそこの防壁の魔石が一番強力だからね。」

「ああ、分かった。今すぐ伝達しよう。」

「ほら、さっさと行くよ!」

「は、はい!」


村長の後を追って集会所へと向かう。そして同時に手を胸の前で組み、精一杯祈った。

“どうか、みんな無事でいてください”と。

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