第4話

「と、言うわけなんだけど…。」

「ふーむ…。」


フォナドの説明を聞いた、テオと呼ばれた男性が腕組みをし、目を瞑る。その横に立っているレナは、同情の眼差しをこちらに向けていた。いたたまれず、下を向く。


「ねぇ、父さん。それならうちに置いてあげましょうよ。行く宛てもないわけだし…。」


レナの言葉に、思わず顔を勢いよく上げる。今の私の目には、彼女がまるで天使のように見えた。


「ああ…それに関しての異論はない。と、言いたいところだが…。」

「わたしゃ反対だね。」


しわがれたお婆さんの声が突如その場の空気を凍りつかせた。一体いつの間に入ってきたのか。


「村長!」

「悪いねフォナド。返事がないから勝手にあがらせてもらったよ。」


いや、その場合普通は帰るものじゃないのか。なんだ勝手にあがるって。下手したら不法侵入になるのでは。


「こんな如何にも何かありそうな娘、村に置いてトラブルに巻き込まれたらどう責任をとるつもりだい?」

「村長、そんな言い方…!」

「お黙り!」


レナの抗議を一喝で制す。その迫力に私は思わず肩を震わせた。


「良いかい?確かに私はよそ者が嫌いだ。でもそれ以上に、私にはこの村の人間を守る義務がある。余計な事に巻き込んで、皆に被害が及んだら合わせる顔がなくなっちまうよ。」


トンッ、トンッと、杖の先で床を叩きながら村長は語る。この人は、意地悪で言っている訳では無いのだ。この村に住む人間の安全を第一に考え、事前に防げる危険を排そうとしている。

優しさだけでは人を守れない。つまりはそういう事なのだろう。


「……。」


私は唇を噛む。だからと言ってこのままでは、自分の明日も危ういのだ。彼女の主張は理解出来るし賢明な判断だとも思うが、はいそうですかと引き下がる訳にもいかない。


「お願いします、この村に置いてください!何でもします、だから…!」

「ダメだと言ったらダメだ!と言ってもその体で今すぐ出て行けというのも酷さね。傷が治るまでは面倒を見てやる。その後は少しだけ路銀と食料をやるから、フォナドと一緒に街に行って働き口を探すんだね。こいつは腕がたつ。旅路の護衛としても優秀だ。」

「村長…。」


その言葉に、一同は胸を撫で下ろす。勿論私もだ。今すぐ放り出されるとばかり思っていたが、それは間違いだったようだ。自分のことばかり考えていたのが恥ずかしい。村長は、己が出来る最大限、私を生かす為の策を考えてくれていたのだ。


「ありがとうございます。ご迷惑をお掛けしますが、それまでよろしくお願いします!」

「ふん、分かったらお前達、その子をとっととうちに連れて来な。寝れる場所があるなら、テオの所に厄介になる必要は無いだろう?」


そう言って村長は踵を返す。フォナド達は顔を見合わせたが、やがて誰からともなく頷き、私の方に向き直って笑みを浮かべる。


「そういう訳だから、ちょっと失礼するね。」


え?と疑問を口にする前に、フォナドは私を抱きかかえた。俗に言うお姫様抱っこというやつだ。恥ずかしくて思わず赤面してしまう。それを隠す為に慌てて顔を俯かせた。


「よし、行こうか。ええと…そうだ、名前がわからないんだったな…。じゃあ今から君は…シノンだ。」


シノン…。口の中でその名を反芻する。何だか、心が暖かい。この感情は、“嬉しい”だとすぐに分かった。


「…はい!」


自然とこぼれた飛び切りの笑顔が、彼の心臓を跳ねつかせた事は知る由もない。

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