第3話

まるでそこは羊水の中みたいな温かさだった。

圧倒的な安心感と温もり。それは赤子に平等に与えられるもの。しかし、私はなんでここに居るのだろう。

その時、不意に何かが弾けるような感覚が走った。同時に、私の体が急速に落下していく。


(この感じ、何処かで…。)


上を見上げると、真っ暗闇の中に誰かが佇んでいた。それも一人ではない、何人も。


「ーー!ー!!」


(何、なんて言ってるの…?)


しかし、言葉が私の耳に届くことは無かった。そのまま落ち続け、やがて何も見えなくなった…瞬間、唐突に視界が眩い閃光に阻まれる。


「…っ!?」


そこで、私の意識は覚醒した。どうやら今のは夢だったらしい。


「ここは…。」

「あ、目が覚めた?」


自分のものでは無い声に、はっとし視線をずらすと、ドアの前に少年が立っていた。天パというやつだろうか、緩くパーマがかった茶髪が触り心地良さそうだなと、割とどうでもいい感想が胸の内に広がる。


「あなたは…?」

「俺はフォナド。フォナド・ライアット。このリコール村に住む冒険者だ。」


冒険者…とは、何だったか。首を傾げる私に、彼も同じように頭をコテンとさせる。


「まさか…冒険者を知らない、とか?」

「は、はい…。と、いうか…。」


そう問われて気付く。私は、誰なの?彼の口ぶりからして村の人間では無さそうだ。そこまで考えて青ざめる。じゃあ、私を知る人は誰もいない…?


「あ、あの…!私がどこの誰なのか、わかる人はいませんか…!?」


それでも一縷の望みをかけずにはいられなかった。もしかしたら…という希望は、簡単に打ち砕かれることになる。


「え…。いない、と思うけど…。まさか君、記憶が無い…?」


絶望が私の胸を締め付ける。これから私はどうすればいいのか。


「…はい。自分の名前も、住んでいた場所も分かりません…。」

「とりあえず、知り合いを呼んでくるからここで待ってて。」

「分かりました。」


そう言って彼は踵を返す。ドアの向こうに姿を消した背中が見えなくなっても、私はそこから視線を外すことが出来なかった。茫然自失、という言葉が頭に浮かぶ。


「私、どうなるの…?」


今はただ、それしか言葉に出来なかった。

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