第2話

「フォナド!ちょっと頼みがあるんだが…。」


八百屋を営む中年の男性、テオに声をかけられた俺は振り返る。実はつい先程まで寝入っていたのだが、太陽は既に頭の真上に位置している。さすがに寝過ぎた。


「ん、何?」


今日は仕事もないし、ゆっくりしようと思っていた矢先だ。まあ別に良いのだが。


「実は、俺の愛犬が妙に川の方角を気にしてるんだ。こいつは鼻も勘もよく利くし、魔物かもしれねぇからちょっくら様子見に行ってくれないか?」


なるほど。確かに彼の愛犬はこれまでに何度も魔物の気配を感じ取ったりして危機を教えてくれた功績がある。ここはギルドに登録している冒険者である俺が行くのが一番無難だ。


「分かった、早速確かめに行ってくる。万が一魔物だったら思念の魔石で連絡するから。」

「おう、頼んだぞ。一応近所の皆には既に家で待機してもらってるから、安心しろ。」


流石、手際が良い。心の中で密かに賞賛をしながら、俺は村外れに流れる川に足を運んだ。


(…ん?)


何か、気配がする。殺気ではないが、一応警戒しながら進む。やがて、人影が見えてきた。それは、痣だらけの少女だった。下半身が水に沈んでいて、上半身だけが地面に投げ出されている。どうやら完全に気絶しているらしい。


「…っ!?おい、大丈夫か!?」

「…ぅ…。 」


慌てて駆け寄り、上体を起こす。声をかければ少女は呻き声をあげるが、意識は覚醒しない。


「不味いな…体がかなり冷えている。急いで連れ帰らないと…!」


俺は、彼女を抱きかかえ急ぎ家に戻った。生憎この村には病院がない。それ故、最低限の治療は己でする必要がある。俺は少女をベッドに寝かし布団をかけた。火起こしの魔石で暖炉に火を灯し、部屋を温める。


『…テオさん、女の子が倒れてた。今俺の家に連れてきたんだけど、来てもらえないか?』

『なに?…分かった、待ってろ。レナを連れてすぐ行く。』

『助かる。』


そのまま思念の魔石でテオに連絡し、到着を待つ。レナとはテオの一人娘だ。医者ではないが、俺やテオよりも治療方法に詳しく多少回復魔法も使える。


「フォナド!俺だ!」

「テオさん、レナ、来てくれてありがとう。この子なんだけど…。」


ドアを開け、二人を中に通す。そしてそのまま少女の元まで案内した。そして改めて未だに目を覚まさない彼女を見つめた。水色がかった長い銀髪は乱れ、服は所々破けている。腕や足には幾つもの痣が痛々しく存在感を放っており、いかにも訳あり感を醸し出していた。


「酷い…。これから処置するから、父さん達はちょっと部屋出てて。」

「分かった、よろしく頼む。」


廊下に出てバタンとドアを閉めると、こちらを見ていたテオと目が合う。


「あんな痣だらけで倒れてるなんて、ただ事じゃねぇな。まさか魔物に襲われたのか?」

「そうかもしれない。…とりあえず、処置はレナに任せて、彼女が目覚めるまで待とう。」


そう言いながら、俺は何処かでこれから起きる波乱を予感していた。

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