第6話 初めてのダンジョン探索と、ルクスの実力?③
薄暗い洞窟の中に銀閃が閃く。
人生初のダンジョン探索に挑む少年ルクスは、順調に魔物を倒しながら踏破階数を伸ばしていた。
「……ふぅ」
残心を解いて愛剣を鞘へとしまう。
現在ルクスが探索しているのは3階層。出現する魔物の種類も数も少なく、余裕を持って戦闘できる階層ということで、しばらく腕試しとしてこの階層をうろついていた。
「ゴブリン程度ならこんなものかなぁ。まだ出てくるのも2、3匹だし、もうちょい下に降りても余裕ありそう」
ここまでに何度か行った戦闘も、遭遇戦、奇襲、正面戦闘とそれなりに場面を考えながらこなしてきたが、それにしても手応えを感じられなかった。
全て一刀で倒せてしまうし、魔法どころか盾すら使う状況にならなかったのだ。いくら今回は肩慣らしとしていても、あまりにも収穫が無い。
「まだ3層じゃ人も多いし、5層くらいまでは一気に行っちゃおうかな」
とにかく消耗がほとんどなかったので、もう少し階層を降りることにしたルクスは歩き出した。
まだまだダンジョン全体でいえば入り口を少し入っただけに過ぎない。ルクスも内心ではそんなに甘いものじゃないとわかっているつもりだが、このままでは肩透かしもいいところだ。多少歯ごたえのある戦闘をこなさないと、モヤモヤを抱えたまま眠ることになりそうだったので、進む足にも迷いはない。
実際ルクスの戦闘能力からすれば、例えソロでも10階層あたりまでは危なくなることもないのだが、ここはダンジョンで、油断したものから冷たくなっていく冒険者の墓場である。ルクスのように慎重すぎるくらいが丁度いいのだ。本人はただ師匠から教わったことを愚直に守っているだけなのだが。
ギルドで購入したマップを片手にどんどんと進んでいく。上層は面積も狭く、構造も単純なためマップさえ持っていれば迷う事は無い。
手元に浮かべた光源魔法で先を照らしながら進むと、階層を隔てる扉が見えた。
「ここを通れば4階層っと」
ルクスの小柄な体躯と比べると、扉は巨大と表現してもよい程大きいのだが、ダンジョンに入ってから自身にかけている身体強化魔法のおかげか、片手でぐっと押し開き、その歩みを止める事は無かった。
扉をくぐればそこは4階層。不思議なことに、このダンジョンには階段がない。どうやって降りているのかはわからないが、どうやらそのようになっているらしい、以上のことはわかっていないのだ。
――ギィ……
4階層に入ってすぐ。ルームを一つ抜けた辺りで、通路の奥からそんな声が微かにルクスの耳に届いた。
すぐに光源魔法を消し、愛剣を抜き放つと同時に盾を体の前に構える。そのまましばらくじっとして、足音などが聞こえてこないのを確認するとゆっくりルクスは進み始める。
おそらくこちらの存在には気付かれている。視線の先に映る右へとカーブした通路の先でこちらを待ち構えているのだろうとあたりをつけて、油断なく向かっていく。
『ガァァァ!』
「――!」
もうあと数歩進めば間合いとなるところで、潜んでいた敵が飛び出してくる。
粗末な襤褸切れを腰に纏い、醜い爪が発達した手にこれまたボロボロの棒切れを持ってルクスへ飛び掛かってくるのはゴブリンだ。数は一匹。耳障りな鳴き声をあげながら、その醜悪な顔を涎塗れにして突っ込んでくる。
ルクスから見て逆袈裟に振り下ろしてくる棍棒を冷静に避け、足を引っかけて転ばせば勝負ありだ。無防備に地面を転がるゴブリンを追いかけ、機械的にその頭を剣で叩き割れば終了である。
断末魔をあげることすら許さずに討伐を完了したルクスは、地面に溶けるようにして消えたゴブリンが残した魔石を回収して短剣を鞘へ納める。
「……これで大体……20匹かな?」
魔石回収用の袋を広げて中身を数えれば、凡そ20程の小さな魔石が入っていた。
大事な稼ぎ口であるそれの口をしっかりと閉め、背嚢に閉まってから再び歩き出す。
その後幾度か同じような戦闘を経て、然程時間をかけずに5階層へと繋がる扉を見つけたルクスは、今朝のドキドキに比べて多少がっかりした心持で扉を開いた。
最高の冒険者を目指す愛され少年の成り上がり 白銀 @shirogane0034
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