第4話 初めてのダンジョン探索と、ルクスの実力?①


 朝日が昇り始め、ちらほらと街中に人影が増え始めた頃にルクスは目を覚ました。


「ふ……あーぁ」


 ぐっと体を伸ばしてあくびを一つ。窓から漏れる明かりを見るに、昨日あれほど疲労感を感じていたにも関わらず、いつも通りの時間に目を覚ませたようでほっと胸を撫でおろす。

 ベッドから離れ、昨夜脱ぎっぱなしにしてしまった服を拾いながらまた着ていく。

 然程時間を掛けずに着替えを済ませた後、ふと枕元に発行したばかりのギルドカードを発見し、ふにゃっと顔が笑顔になる。

 とうとう冒険者になったんだという高揚感と、まだその入り口に立っただけに過ぎないという現実感に、否応なく胸が高鳴ってしまうようだ。

 昨夜握りしめながら眠ってしまったギルドカードをもう一度手に取り、部屋に一か所だけある窓を開けて深呼吸する。心を落ち着かせるのにどれ程効果があったのかは不明だが、取りあえずといった具合には落ち着いたようだ。


「あ、ステータス確認してないや」


 昨日はひと騒動どころか、ふた騒動、み騒動あって疲れ切っていたおかげで、ギルドカードに登録された内容を碌に確認もせずいたことを思い出したのか、慌てて確認作業に移る。

 手に持ったギルドカードに魔力を流し、「ステータス」と一言唱えると、空中に半透明の文字盤が表示された。

 その文字盤には『ルクス 12歳 人族』と、簡単にではあるが、所有者の情報が記載されている。続けて視線を下へと移せば、本人のレベルやスキル、パラメータなども表示されているのだが、本来この情報は無暗に他の者へと公開していい類のものではない。

 例えば強力なスキル、所謂初見殺しなスキルを所持していることが周知されてしまえば、その強みが消えることと同義であり、高いレベルやパラメータを隠して活動したい者も少ない。一部、おつむが弱い輩は、自分の力を誇示する為に敢えて公表している者もいたりするのだが、そういう者たちの寿命というのは皆一様にして短くなる。

 しかし、これは基本的に他人には見えず、自分にしか確認できないようになっている為、それ程注意する必要もない。信頼できるパーティーメンバーや、相手と情報を共有したい場合は、先程の呪文に「共有」と付け足せばいいだけだ。


「うー……ん」


 目の前に浮かぶステータス表示をしばらく眺め、無意識にであろう、小さなうなり声を零したルクスは、腕を組んで難しい顔をしていた。どうやら表示されたステータスに納得がいかないようだ。

 因みに表示されているステータスは、


――――――――


名前:ルクス


年齢:12


種族:人族


職業:冒険者  メイザニア支部所属


レベル:16


体力:C


魔力:C


≪スキル≫

所持数 23


――――――――


 と、なっている。


「ステータスって体力と魔力だけしか表示されないのか……」


 “簡易”と名のつく通り、昨日行った登録時の鑑定では上記の様に最低限程度の情報しか記載されない。なにかもっと【パワー】とか、【スピード】とかそういった具体的なそれっぽいものが表示されると思っていたルクスは、どうにもご不満のようである。


『それにこの、体力:Cって、どの位あるのかもはっきりわからないし』


 ルクスの言う通り、目前に浮かぶ謎の半透明板には、体力魔力共にCとだけ表示されている。

 これも簡易判定による省略された内容なのだが、ルクスはまだそういった詳しい説明を受けていない為、うまく理解できないようで、ますます表情を曇らせている。

 実はこの表示、内容をちゃんと理解すれば、そこそこどころか、かなり高いものであるというのがわかるのだが、知らないのだから理解できないのも仕方がないだろう。


「まあ、いっか。わかんないことはギルドで聞けばいいってレイナさんにも言われたし、今日もどうせギルドに行くんだからそのときにでも――って!」


 うんうん唸っていたルクスだが、ようやく本来の目的を思い出したようだ。

 念願叶って冒険者になったわけだが、冒険者になったからにはダンジョン探索にランクアップにやることはたくさんある。

 慌ててギルドカードを探索用の小さめな背嚢にしまい込み、装備を整えて宿から出る。一先ずギルドに顔を出すのは決定事項として、あまりぐずぐずしていると探索にかける時間が無くなってしまう。

 太陽は既に完全にその姿を現しており、忙しない喧騒の中ルクスはギルドに向けて一直線に駆けていった。

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