Act6-2_鉛刀一割のラビリンス

Date.日付02-August-D.C224D.C224年8月2日

Time.1100時間.16時00分

Location.所在地.Kingdom of Mystiaミスティア王国-Ammunition depot弾薬庫

Duty.Standby任務.待機

Status.Green状態.平常

|Perspectives.Hinatsu Asaka《視点.朝霞日夏》


日中の熱気が未だ引くことは無く、弾薬庫内は熱気に包まれていた。射撃演習を見学していたオイフェミアとベネディクテは何か仕事があるとのことなので本陣へと戻っていった。その代わりにオイフェミアの部下であるという女騎士が1人、腕を組み弾薬庫の壁に凭れ掛かりこちらを訝しむ様な目で見ていた。彼女の名前はゼファーというらしい。つい先程軽い挨拶を交わした以外は何も言葉を発さず、監視役に徹しているようだった。赤ワインを想起させるような深い赤髪をポニーテールに纏め、勝ち気な吊り目が印象的な女性である。ベネディクテとオイフェミアのせいで爆上がりしたハードルでも充分綺麗といえる部類ではなかろうか。歳は20代前半程。身につける甲冑はベネディクテやラグンヒルドとはまた異なる意匠の物。ベネディクテ達が身につける鎧は装飾にも手を抜かず、貴族が身につける物として相応しいそれであったが、ゼファーの身につけるそれはどちらかと言えば実戦的な印象を受ける。金属鎧では無く塗装された革鎧。魔術刻印のような物も見受けられる為、恐らくはエンチャントされた鎧なのだろうか。雰囲気もあの3名に比べれば大分異なるものを感じる。なんというか、こうどうも貴族的で無いと言えば良いのだろうか。どちらかと言えば自身に似た物を感じる。常在戦場の戦士といった空気だ。まあ本物の貴族なぞC.C.Cの仕事で護衛についたノルウェー人と、式典の時に垣間見たイギリス王家、あとはベネディクテとオイフェミアしか知らないが。

さて。そんなゼファーという女騎士が監視している中何をしているのかといえば、弾薬庫内の物資の詳細調査であった。本当はもっと早い時間から行いたかったのだが、生憎と昼間は美少女にせがまれ銃を撃っていた。予定よりも遅くなってしまったが、まあ焦ることも無いだろうと謎の慢心を抱いている。エアロン大尉辺りに知られれば皮肉を言われることは間違いない。

チェックリスト代わりのA4用紙をバインダーで保持し、弾薬庫の中を歩いて回る。本来であれば空調を回すこともできるのだが、生憎と電力などというものは存在しない。いや、一応ガソリン発電機は存在しているが、それを動かすためのガソリンを浪費することは避けたかった。

もし車を動かす事態になれば湯水の様に消費することになる。その時になって選択肢を狭めるのは勘弁だ。


だがしかし現実問題として最も頭を悩ましているのもまた備蓄されているガソリンである。

というのもこの大型弾薬庫にはそれこそ使い切れないだけの弾薬が保管されている。正直歩兵1人でどうこうできる物資量ではない。30万発の弾丸をどうやって消費すればいいのだ。ミニミやらM240に代表される軽機関銃を何も考えずに使うのなら話は別であるが、生憎と俺は選抜射手マークスマン。使い慣れている銃はセミオート単発射撃マークスマンライフル突撃銃として使用可能な狙撃銃アサルトライフル突撃銃である。そも余程の近距離接敵でも無い限りフルオート自動連射を使うことなど無い。制圧射撃などなら別な話であるが、それでもマガジン装弾数は精々40発程度。要するに30万発の弾薬を使用する前に間違いなく死んでいる。市街戦や室内戦であれば弾薬を多く消費するタイミングはあるだろうが、そもあのノルデリアの様な個人が存在している世界で室内戦などあまり考えたくない。一般歩兵相手ならばCQB近接戦闘術と銃の火力でなんとでもなるだろうが、あんな超人相手では一瞬で肉塊と化すだろう。そんな訳もあり当面弾薬に関する心配はしていなかった。どちらかと言えば弾薬の使用期限や暴発への不安の方が大きい。暴発は言わずもがなだが、弾薬にも食品などと同じく使用期限が存在している。その期限を超過すれば様々な不都合が起きる可能性もありますよとメーカーや軍が定めたものだ。昼間撃っていたのはそんな使用期限間近の古い通常弾薬である。使用期限を超過した弾薬であれば些細な事で暴発しても可笑しくないのだ。そんな物騒なものを弾薬庫内に保管しておきたくないため、寧ろそういった古い弾薬は消費していく他無い。幸い使用期限が迫っている弾薬は300発程度だったため、しばらくは大丈夫だろうが不安なものは不安である。だがしかし弾薬全体の備蓄量はあるのだが、それはあくまで一般的な弾薬に限定されていた。具体的に言えば7.62mm×51mm NATO弾、5.56mm×45mm NATO弾、9mm×19mmパラベラム弾などである。対して狙撃銃などに使用されることの多い.338ラプアマグナム弾や12.7×99mm NATO弾、各種特殊弾薬などは然程多いとも言えない。これらは全て強力な弾薬なのだが、考えて使わなければ割とすぐに枯渇するだろう。深刻な事態に対するリーサルウェポンとして使い所は見極める必要がありそうだ。


もしかすれば『弾でそんなに銃の威力が変わるの?』と思う方もいるかも知れないが、これが存外馬鹿にできない。確かにソフトターゲット相手であれば通常弾で殺傷するのに苦労は無いだろう。だがそれは的確に急所を破壊できた場合だ。防具をつけていない人間程度であれば何も問題は無いのだが、俺の懸念は異種族が存在するという事である。もしかすれば某大作JRPGシリーズに登場するトロールなどと相まみえる機会もあるかもしれないのだ。そんな相手に通常弾で挑みたくは無かった。

良き例としてホローポイント弾というものが存在する。これは先端内部が空になっている弾丸で、弾頭の先端がへこんだ形をしており、標的に着弾した際に弾頭が潰れて扁平な形になる。 もっぱら対人、対動物用の弾丸であり、殺傷力が高い弾丸の一つとして知られるものだ。考えれば分かると思うのだが、体内に侵入した弾薬が煎餅の様な形になればどうなるだろうか。内臓も神経組織も着弾周辺がぐちゃぐちゃに破壊される上に貫通もしづらい為摘出手術が必須となる。そして鉛と言うのは人体にとって毒であることは言うまでもない。要するに命中すればほぼ確実に対象を無力化できる強力な弾であるということだ。そんな弾丸が平然と存在する世界で戦争屋をしていたと思うと、今更ながら背筋が薄ら寒くなった。


話が逸れた。最も頭を悩ましているのはガソリンという話であった。

さて、何故ガソリンに一番頭を悩ましているのかと言えば、それは備蓄量の少なさではない。確かに備蓄量も心もとないことこの上ないのだが、それ以上に危惧しているのはこの真夏日によってガソリンが気化し爆発することであった。現状俺の生命線は銃、弾薬庫、ベネディクテとオイフェミアの3つ。そのうちの2つを同時に失う可能性もある爆弾を抱えていると言えば俺の懸念は理解していただけるだろうか。勿論爆弾というのは文字通りの意味である。軍用の保存容器に保管されているため直ぐに爆発するということは無いと思うが、空調も満足に使えない現状ではいずれ限界を迎える事は目に見えている。つまりは本来使いたくない貴重な資源を消費しなければいずれ吹き飛んで火星辺りに転生する可能性もあるということだ。これが本当に頭を痛める一番の原因であった。正直別世界に吹き飛ばされてしまった以上、深淵の核アビスコアの事はもう割とどうでもいい。元の世界に帰還できるのならばそれに越したことは無いのだが、現状では望み薄に思える。それよりも本当にまた俺を吹き飛ばしかねないガソリンへの恐怖のほうが数倍勝る。果たしてどうすればいいものか。この世界にもガソリンというものがあれば良いのだが、そんな物あるとは思えない。石油であれば存在する可能性は無くもないが、そこからガソリンに精製する技術も知識も俺は持っていなかった。つまるところ手詰まり。貴重な燃料を、それが原因で死なぬために消費せざる得ない。全くもって嫌になる。どうせならガソリンも車も無ければ頭を悩ませる必要は無かったものを。

中途半端な選択肢というのはどの分野においてもさらなる苦しみを与える要因になりえるのだと身を持って実感していた。とりあえずガソリンは優先して車両に使用し、余剰を発電機に回す事にしよう。空調さえ使えればとりあえず熱で気化したガソリンに吹き飛ばされる心配はなくなる。正午前後の数時間だけクーラーを回せばとりあえず死ぬことは無いだろう。目減りする資源を見続ける心労で寿命は縮みそうであるが。


次点での心配は水だろうか。オイフェミアの昨日の魔術を用いて貰えれば楽ではあるが、流石にそれを続けるのは無理であろう。井戸でも掘るべきだろうか。まず水脈があるの上であるか甚だ怪しいが。草も生えているからそれなりに潤った土地ではある様に思える。だけど正直重機もなしに1人で掘ることなぞ気やりたくはない。これに関しては追々ベネディクテとオイフェミアに相談することにしてみるとしよう。そもそもここに住むのかすら判別つかないが。


「あんたは一体なんなの?」


不意に背後から低めの女性の声が聞こえてきた。振り返れば訝しげな目をしたゼファーと視線がぶつかる。『お前はなんなんだ?』か。昨日ベネディクテとオイフェミアと話した結果、一先ず俺が異世界人であるということは伏せておく事と決まった。なんと応えたものだろうか。


「と、言うと?」


「ここの建物も、その中に並んでいるものも全て私の知識に無い物。それにあのノルデリアを退けた攻撃、あれはなんなのさ?」


質問の内容からどうやらあの時、オイフェミアと共に助けたうちの1人であるようだ。直接目にした相手であるのならばなんと言ったものか。嘘は良くないだろう。心情的な問題は抜きにしても後々面倒くさそうだ。


「すまないがその辺りは答えられないんだ。いずれオイフェミアとベネディクテから説明があると思うよ」


そう言えば更に訝しむ様な視線は強さを増す。まあ客観的に見れば怪しいことこの上ない存在だろうからな。しばし視線がぶつかった後、ゼファーは大きくため息を吐いた。


「ハァ…まあそんなことだろうと思ったよ。じゃあ質問を変えようかな。あんたはオイフェミア様の事をどう思っているのさ?」


意外な内容の質問に鳩が豆鉄砲を食らった様な顔になった。何故そんな事を気にするのだ?別に俺が彼女に対して敵意を向けない限り、そんな事気にすることでも無い気がするが。いや、そもそもその確認でもあるのか?


「って言われてもなぁ。まあ感謝しているよ。あと顔が良いと思う。あの娘の旦那になる奴は幸運だな」


そう言えばゼファーも少し驚いた様な表情を浮かべた後、盛大に溜息をついた。なんでや。顔の良いやつの事は褒めるべきだろうが。そんなため息を疲れるいわれは無い。


「あんたは存外能天気なんだな。いや世間知らずというべきかな?」


前者は兎も角、後者に関しては何も言い返せない。それはそうだろう、この世界についての知識など生まれたばかりの赤子も同然なのだ。その分ニュートラルに物事を思考できるとは思うが。


「そりゃどうも。でもなんでそんな事を聞くんだ?」


「いや…あんたはオイフェミア様をどの程度知ってるんだ?」


「正直に言えば全然知らん。パーソナリティはある程度知ることができたが、あくまでも表面上なものだ」


ゼファーの表情に『マジかコイツ』という感情がありありと浮かんでいる。それについては甚だ心外なのだが、まあ最もな反応なのだろう。だがこういう他者との交流からもオイフェミアやベネディクテという個人の存在はありありと計ることができた。

わかりやすい所で言えば彼女達を知っている事は、少なくともミスティア王国に生きる人間にとって当たり前なのだと言うこと。要するにかなりの著名人であるという点だ。日本で言えば天皇家を知らないとかだろうか。そう置き換えれば、なるほど馬鹿に見られても仕方がない。


「ハァ…。いいか、オイフェミア様は真正の天才だ。その実力は逸脱者として祀り上げられるほど。実際オイフェミア様の右に出る魔術師なんてほぼいないよ。だけどさ、そんなオイフェミア様もまだ16歳の少女なんだ」


ゼファーのその口調からは優しさと心配が滲み出ている。それだけでこの女性がオイフェミアに対してどれだけの忠誠心を持っているのかを推し量るには充分であった。


「あの御方は幼少の頃から人の心を全て見ることができた。今でこそ魔術として制御していらっしゃるけど、昔は無意識でそれが発動してしまっていてね。随分と人の悪意や憎悪、恐れ、嫉妬なんていう負の感情を多感に感じて過ごされていたんだ」


ゼファーは後悔を噛み殺す様にそう言葉を続ける。なるほど、他人の心を見るというのは便利そうだが、上手く扱わなければ不利益の方が多いだろう。想像してみてほしい。会社の上司や学校の同級生の感情や思考が、望んでもいないのに脳へ流れ込んでくる状態を。自身に対するヘイトや恐れ、嘲り、罵り。そういった思考がとめどなく流れ込むその状態を。容易に精神衰弱し人間不信に陥る事は想像できる。だが俺は天才では無いが故に、そういった感情を抱いてしまう周囲の人物の気持ちも理解できた。だって自らの心を全て見られることなど恐ろしいではないか。それが幼少の時期なら尚更だ。俺はもう29のおっさんであるし、オイフェミアに敵意も憎悪も無いため心を見られることは然程気にしないが、これが貴族社会であれば重大インシデントなのだろう。どれだけ策を回そうとも全てを見透かされるのだから、関わりたいはずもない。そういった周囲の環境は、少女の成長にどんな影響を与えたのだろうか。


「そして3年前。アルムクヴィスト家の前当主であったオイフェミア様のご両親は信を置いていたとある地方貴族の裏切りで戦死された。その後直ぐにベネディクテ様の逆鱗に触れたその貴族は処刑されたが、そんな事で心に平穏が齎されるのならば誰も不幸になどならないってものさ。あの時のオイフェミア様は荒れに荒れていたよ。いや正確には全てを恐れて荒んでいらっしゃった。その結果魔力暴走を起こして湖を一つ永久凍土化させたりしているんだけど、まあそれは今は良いか」


ドクン。心に軋みが奔ったのを感じた。それは共感なのだろうか。俺自身の記憶に刻み込まれた2年前の出来事が想起される。呼吸が乱れる。動悸が激しくなる。あの可憐な少女も同じなのか。予想もしなかった部分が自らと同じであった事に困惑が隠せない。


「それから尚更、オイフェミア様は信頼している者に裏切られる、嫌われる事を酷く恐怖していらっしゃる。だから、あえて言おう」


ゼファーの視線がより一層鋭さをました。熟練の研師が渾身の力量を持って研ぎ上げた刀剣が如くの鋭利さを伴って、俺を睨みつける。


「生半可な気持ちであの御方に近づくな。もしあんたがオイフェミア様の心に傷をつけようものなら、私が殺してやる。いいや、私だけでない。アルムクヴィスト家に忠誠を誓う全てがあんたを殺すだろう」


彼女はそう言い切った。それには冗談も、洒落も一切含まれておらず、純粋な殺意が込められていた。思わず息を呑む。だが答えることは決まっていた。息を吸い込む。そして声を荒げて言葉を発した。


「当たり前だ!幾千の人間を殺してきたとしても、そんな話を聞いて、そんな行動が取れるほど人間をやめたつもりはない!」


俺が息を荒くし叫ぶ事は想定外だったのか、ゼファーは面食らったような表情をしていた。だが少しの間を置いてコロコロと笑い始める。俺の方もそれは予想外で、彼女が言葉を発するのを待った。


「ハハハ!なるほど、それで良いさ。何、さっきはああ言ったがオイフェミア様が信頼しているあんたのことは認めている。これからよろしく頼むよ、アサカさん」


そういってゼファーは一歩踏み出し、手を差し出してきた。俺もそれに応え手を取る。なるほど、オイフェミアは良い臣下を持っているようだ。主を信じ、また主の信じるものを信じる。それは盲信というのだろうが、なにあの聡明な少女のことだ。側に置く存在も伊達では無いだろう。


「よろしく頼む、ゼファーさん」


どちらからともなく手を離す。ゼファーの顔には気持ちの良い笑みが浮かんでいた。竹を割ったような正確の人物だという印象を強く抱かせる。


「じゃあ、改めて自己紹介をしようかな。私はゼファー・ミフェス。オイフェミア様の身辺警護を務めるアルムクヴィスト第二近衛隊の従士だよ」


「俺は朝霞日夏。故あってベネディクテとオイフェミアの推薦で傭兵をやることになった。従士って事は貴族ではないのか?」


「そうだよー。私が貴族に見える?アルムクヴィスト家の近衛隊に身分は関係無いのさ。共通点は唯一つ、アルムクヴィスト家へ絶対の忠誠を誓っていることぐらいかな」


最初の予想通りやはり貴族では無かったか。通りで似た雰囲気を感じたわけだ。まあ近衛隊と傭兵じゃ、バチカン衛兵隊とPMSC民間軍事企業オペレーターくらいに格式に違いがあるだろうが。


「っと、邪魔しちゃったね。何か確認していたんだろう?」


「あー、そうだった」


ゼファーに指摘され確認作業を再開する。ガンラックにはC.C.Cで正式採用されている銃が陳列されていた。レミントンACRアサルトライフルHK417マークスマンライフル。最早見慣れた光景だ。ここだけ切り取れば誰も異世界だとは思うまい。

数は各200挺ほどだろうか。何処にこんだけの小銃を投入する気だったんだか。因みにM39EMRは俺が個人的に持ち込んだ装備である。当然この場には予備パーツなど存在しない。宿舎にあった自室には予備パーツを置いていたのだが、こんな事になるならこちらにも置いておくべきだったか。ふざけんな、誰がこんな自体予想できるっていうんだ。

そうして確認しながら歩いている所でふと足を止める。そして二度見した。


「誰だよこんなもん持ち込んだ馬鹿」


そこにあったのはM134ミニガン。かの有名なM61A1バルカンを小型軽量化した連装機関銃である。6本の銃身を持つ電動式ガトリングガンであり、毎分2,000 - 4,000発という単銃身機関銃をはるかに超える発射速度を持つ気の狂った軍事開発者の落とし子。

生身の人間が被弾すれば痛みを感じる前に死んでいるという意味で「Painless gun無痛銃」とも呼ばれる代物であった。バッテリー装着、及び弾薬装填時の総重量は100kgを超えるため歩兵が携行して扱える代物ではない。それを示すかのように下部には三脚が取り付けられ、固定機銃として運用することを想定しているようだった。通常弾薬で使用可能なリーサル・ウェポンになり得る代物であるが、これを使うが最後、まじで湯水の様に弾薬を使用することになるだろう。切り札その3として頭に入れる程度にしておこう。それに電動ガトリングガン故使用後のメンテナンスは必至だ。そして俺には初歩的な電工知識しか無い。当然こんな現代技術の粋を絞り出して人を殺すために生み出されたテクノロジーを整備できるはずもなかった。つまりは一度きりの使い捨てになる可能性が高いということ。カードを切るタイミングは慎重にしなくては。


その他に特筆する装備と言えばC.C.Cが使用しているパンツァーファウスト3対戦車ロケットランチャーなどであろうか。陸自でも110mm個人携帯対戦車弾LAMの名称で使用している馴染み深い一品だ。それが20挺。弾頭は60発ほど。これであれば例え竜が相手でも命中さえさせれば殺せるだろう。当てられるかは知らんが。

全体をくまなく見きれた訳ではないのでもしかすれば今後幾つかの掘り出し物が出てくる可能性はあるが、現状戦力として活用できそうなものはこの程度である。銃を使える頭数さえ揃えれば中隊規模の部隊が編成できる装備備蓄量に慄く。恐らくは作戦行動中の中隊への補給物資だったのだろうか。

一先ず幅広い状況に対応できそうな装備があったことは喜ばしいのだが、それは同時に俺を縛り付ける鎖となっている。どういうことかと言えば何かが発生した時全財産を全て担いでの夜逃げなどは絶対に無理だということ。先程ゼファーから聞かされたオイフェミアの話もあるので、そんなことするつもりは毛頭無いのだが、歩兵1人が管理するには多すぎる物資量に目が眩む。とりあえずは初仕事の話を聞いてから装備を選択することになるだろうが、よっぽどヤバい相手で無い限り小銃で対処したいというのが本音。歩兵1人が携行できる装備には限界があるからだ。ゲームみたいにアサルトライフルとスナイパーライフルとロケットランチャーを同時に携行することなどできないのだから。


その時弾薬庫外で馬の足音がした。ゼファーがすぐさま抜刀し大扉横へと移動する。手慣れたものだ。練度の高さが伺える。俺もヒップホルスターからP226ハンドガンをクイック・ドローし、遮蔽に身を隠した。敵である可能性は低いだろうが、万が一ということもある。警戒するに越したことは無い。


「何者か!」


ゼファーが誰何を行う。そこで思い出した。初めてオイフェミアと出会った時に誰何を行ってきたのもゼファーであった。

だがその何者かの姿を確認したのだろうか、ゼファーが片膝を地面に付け最敬礼の姿勢を取った様子が目に入る。となれば来訪者はオイフェミアかベネディクテのどちらかだろうか。

大扉の横から美しい白髪と共にその姿が現れる。高めの身長に非常に整った顔立ち、意志の強い瞳。ベネディクテであった。


「すまんなアサカ、問題発生だ」


いつもどおりの語調でそう声を上げるベネディクテ。だがその表情には少し困った様な色が伺えた。様子から見るに敵襲というわけでも無いだろう。ではなんだろうか?


「母上がお前を報告会へ召集された…。明日共に王都へと向かってもらうぞ」


眉を下げながらそういうベネディクテの言葉を数秒かけ咀嚼する。そして理解が及んだと同時に言葉が漏れた。


「マジ…?」

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