Act1-2_銃と意志

/ 朝霞日夏

 8月17日 19:47 ? 


 視界が明滅している。連続した浮遊と自由落下を繰り返しているような錯覚に苛まれる。朦朧とする意識のまま瞼を開けた。

そして飛び込んでくる景色は満点の星空が浮かぶ黄昏の世界。

 なんとも幻想的な光景に一瞬思考を止めて"綺麗だ"という感想を抱いた。

星々は今まで過ごしたどの土地よりも強く、そして多く輝いている。

黄昏と夜空がミックスされたこの光景は夢ではないかとそう思った。


《起きて》


 段々と微睡みから意識が浮上する。だが思考が覚醒していくと同時に、混乱も広がっていった。


……なんだ、これは?

俺はT-90から放たれた砲撃で弾薬庫諸共火星あたりまで吹き飛んだのではなかったのか。


 上体を起こし周囲を確認する。まず自分が倒れていた場所。

そこは打ちっぱなしのコンクリートで作られた、馴染みのある構造物の屋上であった。

俺を吹き飛ばしやがった弾薬庫である。だが色々とおかしいところがあった。

 いやこの状況自体がおかしいのだが、それはひとまず置いてほしい。

 おかしいところというのは、弾薬庫に砲撃が命中した痕跡が残っていないことであった。

 壁も砕かれておらず、精々が自然劣化による傷程度である。

頭に疑問符が連続して浮かび上がる。なんだ?どういうことだ?


 自身の周りには先程まで用いていたM82A1アンチマテリアルライフルM39EMRマークスマンライフル、そしてレミントンACRアサルトライフルが投げ出されている。薬莢や各種マガジンも先程のままだ。


 次に弾薬庫の周りの光景を確認する。

目に入ってくるのは、黄昏と星々の仄かな明かりで照らされた平原。


 この光景は何処かで見た記憶がある。確か学校終わりに妹とリビングで見てたドキュメンタリー番組だ。

北ヨーロッパ平野。それと瓜二つの風景である。相違点を上げるのならば、俺がテレビで見た北ヨーロッパ平野は星々と黄昏が共存しているような場所ではなかったが。

 とりあえず混乱で仕事を投げ出そうとする脳に喝をいれ、状況の整理を始める。


 俺はアゼルバイジャンのドーラ空軍基地で、襲撃してきた敵性部隊との戦闘中だった。そしてその途中に敵戦車からの砲撃を受け弾薬庫ごと火星まで吹き飛ばされた。

 ここまではいい。よく記憶しているし衝撃もリアルに残っている。

 問題はこの状況だ。なんだ?どういうことだ?まさか日本のサブカルチャーで流行りの異世界転生というやつだろうか。


 そうだ、と思いつきPDA携帯情報端末をポケットから取り出して起動させる。ディスプレイには"OFFLINE"のエラーメッセージ。時刻表示:19:47。


「……20分近く、意識を失っていたのか」


 このPDAはイリジウム式衛星リンク端末である。

つまりOFFLINEということは"衛星が発見できない"状況であるということ。

もしかしたらPDA自体の損傷もあり得るかもしれないが、周囲の状況を鑑みるに俺と弾薬庫が不明な場所へと転移させられた可能性のほうが圧倒的に高い。


 サブカルチャー好きの日本人であることがこの異常な自体を飲み込む事に貢献するとは思いもよらなかった。


 とりあえず呆けていても仕方がない。屋上から周囲を改めてよく観察する。


 目視で観測できる限り、動体無し。気温や湿度は夏。ひとまず即時の危険は無さそうだ。

屋上に転がっているM82A1とM39EMR、レミントンACRを担いで階段を下る。


 戦闘中に分泌されていたアドレナリンが切れている為先程よりも重く感じた。

階段を下りきり、弾薬庫の正面へとやってくる。担いでいた銃達を地面へと起き、改めて弾薬庫を観察した。


 やはり砲撃痕などは見て取れない。戦闘前の姿のまま、当たり前のようにそこに存在していた。


 弾薬庫の人員通用口を開き内部へと入った。当たり前だが、電気は落ちているようで内部は真っ暗……でもなかった。


 弾薬庫の中央に、それはあった。

 縦1m、横50cmほどの——巨大なルビー。

 赤く発光し、内部で何かの粒子が動いている。


「……なんだ、あれ」


 近づく。


 内部の粒子が、脈動している。

 まるで——呼吸しているかのように。


 その瞬間、頭痛が走った。


 ——視界が、歪む。

 ——音が、遠くなる。

 ——空間が、揺らぐ。


「ッ……!」


 咄嗟に後退する。


 距離を取れば、症状は治まった。


「……近づくな、ってことか」


 この物体。

 ただの発光体じゃない。

 恐らくは俺がこんな状況になっている元凶そのものだ。


 だが現状でこの謎のルビーへの対処法も造詣も持ち合わせていない。

 選択するのは現状維持。ひとまずは、触らぬ神に祟りなしの精神だ。


 弾薬庫内の物品を確認していく。あの謎の物体の明かりだけでは心もとなかったため、携帯していたフラッシュライトを起動した。

 

 弾薬、銃火器、装備品——個人では使い切れないほどの物資が備蓄されていた。戦闘糧食は中隊規模で2ヶ月分。ガソリンが2000リットル。

 そして、C.C.C仕様のスバル・フォレスターが1台。


「……当分は生きていけるな」


 食料と武器がある。それだけで、ひとまず安心できた。


 ひとまず弾薬庫の管理者に言いたいのは、弾薬庫にガソリンなんて保管しているの正気か?絶対アゼルバイジャン正規軍の連中が、保管場所に困って適当に保管したのに違いない。ただ今は素直にありがたかった。


 元より巨大な弾薬庫であったが、ここまで多くの装備が保管されているとは思ってもみなかった。


 とりあえずは弾薬庫の物資搬入用扉を開放する。気温は27℃ほど。空調が死んでいる状態で密閉空間を作れば、ガソリンが気化して爆発しかねない。


 次こそ火星まで吹き飛ばされるだろう。そんな事はまっぴら御免である。


 搬入用扉を開放し、弾薬庫から椅子を持ってきて夜空の下に座る。


 さて。どうしようか。とりあえずは周辺の調査から行うべきだろう。現状では何も分からないし、今後どうするかの判断材料は確保しておきたい。

 幸いにも周囲は岳陵は有りつつも平野の様であるし、個人でも索敵は比較的問題ないだろう。


 幸運なことにも車があったが、今はやめておいた方が良いかもしれない。ガソリンは多くないし、無駄遣いは避けるべきだろう。

 とりあえずは徒歩で周辺の調査を開始することに決める。


 その時であった。未だに装着しているヘッドセッド-ComTacⅢが何かの音を拾う。ごく僅かな音だが―――これは金属音だ。即座に地面に伏せ顔を当てる。

 振動を感じる。地震ではない。これは大人数が移動する際に発せられる振動だ。


 再びヘッドセッドが音を拾った。爆発音のようなもの。間違いない。この周辺で何かが起きている。


 弾薬庫へと戻り装備を整える。これだけ遮蔽の無い平原だ。必然とロングレンジでの接触となるだろう。


 メインアームにはM39EMRを選択する。Mk11やHK416の方が性能は良いが、今は最も使い慣れてるコイツがいい。


 サイドアームにはP226。自衛隊時代から使い慣れているこのハンドガンを選択する。


 そしてヘッドギアに複眼のナイトビジョンを追加する。M39EMRも先程の戦闘で暗視スコープが装着されているが、もし近接戦となった場合に対応しきれない。


 弾薬庫から外へと戻れば鼻に嗅ぎ慣れた匂いが飛び込んできた。本能的に忌避感を感じるようなツンとする匂い。

―――人の焼ける匂いだ。

 

 急速に意識が切り替わる。音や爆発音であれば映画の撮影などの可能性もあった。いや、そう思いたかっただけだ。

何処か無意識でそう願っていた。だがこの匂いが漂ってきた時点でその可能性は消え失せる。

映画で匂いなどを再現するわけがないのだ。やったとしてもそれは4DXなどの劇場内での話である。


 俺は音と匂いの方向へと駆け出す。兎も角、状況を確認する必要がある。

500mほど走った先の岳陵を登り切る。その先の光景を目にした時、思わず言葉が漏れた。


「やっぱり異世界かよ……?」


 そこに広がっていたのは戦場であった。それも俺が身を置いてきた戦場ではない。

銃よりも直接的な殺意を感じさせる刃物と、矢による中世の戦場だ。


 だが、明らかにそれ以上の違和感が存在する。


 それは、時折火の玉や雷撃のようなものが両陣営から放たれているのだ。……魔法?これは現実か?


 仔細は分からないが、2つの陣営がぶつかり合っているのは間違いない。


 戦局を確認する。

 自分の位置から主戦場までは大凡2km。2つの陣営には戦力差に開きがあることが伺える。

大体3倍程度だろうか。数で勝る陣営が全翼に展開し、弓兵による射撃を試みている。


 対する少数側の陣営は満足な展開ができず、密集陣形で防戦に追い込まれているのが容易に理解できた。


 それぞれの陣営に旗が掲げられているのも確認できる。生憎と緑の世界に染まっている視界では色までは判別できないが、なんとなくの陣営把握には困らない。


 さて。どうするべきか。自身と直接的な関係のない戦闘に遭遇してしまった時の対処は2つ。

即座に撤収し傍観を決め込むか、戦闘に介入するかである。とはいえ、弾薬庫が動かせない以上、撤収はどうやっても無理だ。


 恐らく、少数側が防御陣形を築いて、キャンプも設営しているとなれば、防衛側であるのは間違いはない。

 そして、弾薬庫が位置しているのは、少数側キャンプの後方。つまり、この地域は少数側の勢力圏であることは伺える。


 改めて戦局を確認する。


 少数側:約500

 多数側:約1500


 少数側は岳陵の上に陣地を築いている。

 だが、30m程度の緩やかな高低差では騎兵突撃は防げない。

 平野での防衛戦。寡兵。


 ——勝ち目は、ほぼない。


 それでも、俺の選択肢は2つ。

 傍観するか、介入するか。


 弾薬庫は少数側の勢力圏にある。

 どちらが勝っても、俺は説明を求められる。


「……介入するしかない」


 問題は、どちらに加勢するか。


 まず、多数側に加勢した場合。


 彼らは既に圧倒的優勢だ。俺が手を貸したところで、恩を売れるとは思えない。

 むしろ、少数側の勢力圏にいた武装集団として、警戒される可能性が高い。


 それに、彼らの陣地にはキャンプがない。

 つまり攻め手だ。侵略部隊か、奪還部隊かは不明だが——


「……どちらにせよ、信用は得にくい」


 次に、少数側に加勢した場合。


 弾薬庫は彼らの勢力圏。

 寡兵で劣勢の彼らに手を貸せば、恩を売れる可能性が高い。


 問題は、彼らが俺の存在を知らないことだ。

 突然現れた武装集団——間者と疑われる可能性もある。


 だが、戦闘に介入すれば、少なくとも『敵ではない』と示せる。


「……少数側、か」


 合理的に考えれば、これが最善だ。


……さて。どうするか。いずれにせよ、戦闘に介入するのは確定的だ。

 消極的な武装集団ほど、不気味なものはない。せめて、意思ははっきりさせないと人の信用は得られない。その信用が負のベクトルであったとしても。


 ひとまず、現状ありえないことは、俺が武装解除することだ。武器無しの人間がどのように蹂躙されるかを、俺はよく知っている。

 東ヨーロッパ、中東、東南アジア、アフリカら戦場。そして……日本。それらに身を置き、人間の怪物性はいくらでもみてきた。は蹂躙される。弱き者は、侵され、犯され、奪われ、殺される。


 その時視界の端に騎馬集団を確認した。

 主戦場から1.6kmほど離れた位置。俺との距離400mほどの平野にそれを発見する。


 どうやら2つの騎馬集団が追撃戦を行っているようだった。

 地面に伏せ、念の為に騎馬集団をスコープに捉える。どうやら主戦場で交戦している2勢力と同様の集団であるようだ。


 逃げる側は重装騎兵。旗を見るに、少数側だと推測できる。追う側は一騎を除いて軽槍騎兵。こちらは多数側の所属のようだ。

 そして、追撃側の先頭の黒い甲冑の人物。その人物が騎乗する馬は、他の馬とは異なっていた。

 体躯は通常の馬の倍はあり、そして足が6本ある。明らかにファンタジーの生物であるが、存外頭は冷静だった。


 しばし追撃戦は続いたが、長くはなかった。軽装騎兵側が追いつく。その先頭を走っていた黒い甲冑の騎士が、弓を逃げ手の1人に命中させた。


 矢を当てられたその人物は、どうやら女のようであった。

それどころかあの騎馬集団全員が女である。どういうことだ?と頭に疑問符を連続して浮かべていた。


 矢を射られた女が馬から吹き飛ばされ落馬する。恐らく衝突時の速度は50km近いだろう。良くて重症、悪くて即死。そう思っていたのだが、逃げ手の騎馬集団は即座に停止し、落馬した女を護るように展開した。


 どうやら落馬した女は逃げ手側の重要人物であるようだ。だがあの速度の落馬では最早瀕死だろう…そう思っていたのだが、その女は立ち上がる。……マジか?普通にバイク事故並の速度で地面に叩きつけられていたのに。


 スコープの中心で、その女の顔を捉える。……いや、女というよりも、少女といったほうが適切だ。

豊かな金髪に、緑に染まった世界でもなお崩れない美貌。まるで、稀代の芸術家がそのまま現世へと生み出したような、絶世の美女。


 すっと伸びた鼻立ちに、意志の強そうな眉。アングロサクソン系の顔立ち。子猫のような大きな瞳に列記とした敵意を宿して、追手側の黒い騎士へと向けている。

 

 その姿が、記憶の誰かと被る。


「……ッ」


 頭痛が走る。頭に無数の映像が流れ出す。

——喪服の列。

——秋奈の冷たい手。

——姫乃の温もり。

——裁判の傍聴席。

——秋奈が、被告を見る目。

憎悪が再燃する。恨みが湧き出る。

何より――不甲斐な、情けない、を殺したい。


「ああ、クソ―クソッ!」


 左手の人差し指を、噛む。

 第一関節が軋む。血が滲む。

 痛みで、思考を無理やり戻す。


 多数側を助けた所でこちらへのメリットは少ない。最悪、危険分子としてそのまま排除されかねない。今後を考えるならば、少数側を勝たせて恩を売るのが合理的だ。


「……合理性、か」


 違う。

 俺が少数側に加勢するのは、合理的だからじゃない。

 ただ、あの少女を見捨てられないからだ。


《……そう。あなたはそういう人》


 最後は誰かに背を押されたような気がした。

 やってやろう。M39EMRのセーフティを解除する。


 追撃側の騎馬は逃げられないように周囲の包囲へと動き出す。統率が取れている。      

 主戦場の様子を見て気づいていたことだが、どうやら正規兵同士の戦闘であることは間違いないようだ。


 そして背中に旗を差した黒い甲冑の騎士が、包囲網の中で逃げ手達と相対した。得物は身の丈以上の大槍である。

 しばしの間何かを話していたようだが、不意に黒い甲冑の女が、地面を蹴った。


「——は?」


 次の瞬間、スコープ内から消えた。

 いや、消えたのではない。速すぎて追えなかったのだ。


 20mの距離を、一瞬で詰めた。

 人間の動きじゃない。音速に近い——いや、それ以上か?


「……マジかよ」


 驚愕は思わず言葉となって漏れていた。

 なんだあれは。大凡地球人類では無いことは確かである。あんな動きできる人間が地球にいてたまるものか。


 女騎士と黒い甲冑の人物の実力差には大きな開きがあるようで、数手と打ち合わず女騎士の首が宙を舞った。


 そのまま一気に他へも追撃を仕掛けるかと思われたが、黒い甲冑の人物は不意に回避機動を行う。先程と同じく速度0の状態からの超機動。その理由は落馬した少女が何かを放った事だった。


 一瞬だったが青白い槍のようなものが黒い甲冑の女へと向かい霧散したのが見えた。……本物の魔法だ。直感的にそう察する。


 落馬した少女は連続して同じ魔法を放つ。だがそのどれもを黒い甲冑の女は超機動で回避していった。


 マジでなんなんだあの動き。少なくとも俺の知っている人間は、あんな動きすれば体内がジュースになっても可笑しくないはずである。


 回避を行った黒い甲冑の人物に対して幾人かの女騎士が追撃を仕掛ける。だがその誰もが数手の内に首と胴体が分かれる事になっていた。


 だがその間に落馬した女の周辺に幾つもの魔法陣が一瞬にして浮かんだのを目撃する。そして次の瞬間には空間を歪ませるほどの光波が黒い甲冑の人物に向かって放たれていた。


 その一撃の目撃した俺は、驚愕以外の感想を抱けない。

 直線上50mほどに渡って地形を抉り取る様に放たれた光波は、包囲網を形成していた騎兵の何騎かを消し飛ばす。


 しかし黒い甲冑の人物はそれを回避したようで、直ぐに体勢を立て直していた。このような戦闘を初めて目撃する俺にもわかる。これは、常識をした、超人同士による戦いだ。


 思考を一回区切り、どうするべきかにリソースを回す。

驚愕で呆けていた脳を回転させる。

 

 あの超人相手に喧嘩を売ればどうなるかわからないが、自分の命の心配など今更すぎる。ただ俺は、あの少女を見捨てられないのだ。

 とはいえ、別にこんなところで死ぬ気もない。自殺願望があるわけでもないのだから。


 既にセーフティは解除しているため、そのまま引き金に指をかける。


 狙うは、あの黒い甲冑の超人。全身鎧に加えて、400mのミドルレンジ狙撃。胴体部のバイタルパートに対しての射撃では、威力が減衰して致命傷にならないかもしれない。


 黒い甲冑の首元に、レティクルを合わせる。

 呼吸を整え、引き金を引いた。


 銃声。ヘッドセットがその大半をカットし耳を保護した。

 7.62x51mm NATO弾が、400mの空間を裂いて飛翔していく。


——その瞬間。


「―ッ!」


 引き金を引いた瞬間、黒い甲冑の人物と目があった。

 首元に命中するはずだった弾丸は、しかし黒い甲冑の人物が体勢を反らしたことにより肩口に逸れる。

 マズルジャンプの跳ね上がりにより最終着弾までは見えなかったが、黒い甲冑の人物の肩部鎧が砕けていることが命中した何よりの証だ。


「……避けやがった?」

 

 弾着までの時間は0.5秒以下。その間に、400m離れているこちらを認識し、回避行動を取られた。人間業ではない。

 一撃で仕留められなかった事に対して舌打ちをしつつ、連続で弾丸を発射する。だがそのどれもがあの超機動で回避された。速度ゼロからの瞬間機動。恐らくは音速に近い速度が出ている。ただの膂力ではあり得ない。とすれば、魔法的ななにかか。


 5発撃った所で目標を包囲している騎兵へと切り替える。混乱していることが手に取るように伝わってくる騎兵の頭部めがけて、引き金を引いた。


 暴力的な初速で加速された鉛玉は騎兵の頭を吹き飛ばす。最終着弾を見届ける事はせず、連続で他の騎兵に弾丸を発射していった。


 マガジン内から弾が全てなくなる15発を撃ち放ち、ピッタリ15騎の騎兵の頭を吹き飛ばした。

そのタイミングで向こう側も撤退を決断したようで、一気に残存の騎馬は離脱していった。


 黒い甲冑の人物もあの超機動で離脱していく。黒い甲冑の人物が騎乗していた6本足の馬は、いつの間にか視界から消えていた。


 どの道リロードだ。俺は立ち上がりながらマグチェンジを行い、残された逃げ手の集団に目をやる。そして落馬した少女と目があった。


 あー、面倒くせえとかそもそも言語通じるのか?など様々な感情が胸中でシャトルランを開始する。

 まあうじうじしてもしょうがない。どの道もうやってしまったのだ。


 俺は残された集団のもとへ駆け出す。


 400m先。

 そこからでも彼女らの困惑と殺気が、はっきりと伝わってくる。


 ――下手したら殺されるかもな。


 だが、もう後の祭りだ。


 どのみち俺には引き返す選択肢は無い。


 M39EMRを、ハイレディに構える。


 ――最悪の場合は、これに頼ることになるだろう。

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