第5話 娘の家出

 先日の心の病はかなり私を責めさいなんだものの、実母と義母と義祖母のおかげで、だいぶまともに生活できるようになり、一人にならない限りまともに生活ができるようになった。まだ試していないのだけれど、電車もそのうち乗れるようになれるのではないだろうかと思う。とりあえず、歯医者は診察台に乗ることも出来たので、病院は調子が良ければ通院も問題ないようだと思う。

 自己分析を繰り返し、こうすればできる、ああすればできる、これはまだできないから、なんとかして、気を紛らわせてできる方法を考える。考えすぎてはしんどくなって倒れ、倒れては倒れないように何とかすべく方法を考える。

 そんなのを繰り返し、繰り返し、一つ一つつぶしていく。

 そんな日々を繰り返し、ほぼ一カ月弱。

 実母は遠い実家から、実父を置いて、また、一週間の面倒を見てくれていた。

 そうしていたらば、やはり、娘がいろいろと問題を起こした。

 私の看病で2週間ほったらかしにしていたため、パソコンを手放さなくなってしまったのだ。なおかつ、学校へも行かないという体たらく、どうしようもない。挙句に決定的な出来事が起こった。

 娘が深夜に嬌声のような変な声を上げて、実母がそれに驚き、夜に彼女の部屋へ入ったことだ。

 どうやら、パソコンで良からぬことをしていたらしい。

 そのよからぬことに関しては私も良く判らない。

 何故なら、彼女に何度も聞いても、何をしていたかは言わず、黙り込むばかり…頭の中でいらぬことばかりが広がり、膨れ上がり、実母も私も頭がパンクしそうになった。娘は本当に好き勝手しすぎていて、私が病気になる前も(ある意味、これが原因でもあるのだけれど)門限を二時間以上破ったり、門限通りに返ってきても、今度は友達を送る(送ったところで10分もかからないところなのに)と言っては、二時間近く帰ってこないなどを繰り返していた。

 その上で、今度はコレである。

 どうしようもなくなり、義母を呼び、仕方なく、私の夫も呼んだ。

 結局、義母とも話さず、やっと夫とはなんとか話したようなのだけれど、内容については判らない。私も実母も義母もシャットアウト状態での会話だったからだ。

 パソコンの使用について、土日だけにする。もしくは10時には私たちに預ける。などの提案をしたが全く彼女は話しをしてくれず、もうどうしようもなくなったとき、彼女は夫の実家へ泊ると言い出した。

 一晩、そう、一晩…ゆっくり眠れると実母と私は思った。

 何故ならずっと、パソコンを返却するため11時近く、もしくはもっと遅くまでずっと起きていたからだ。しかし、それが一晩ですまなくなった。

 次の日の夕方、夫と娘はやってきて、しばらく、夫の実家で娘が暮らすことを言ってきた。しかも、娘はそれをラインで知らせたと…私のラインにはしばらくパパの実家にに居ます、さがさないでください…とか、書かれていて、ふざけるなって思った。

 夫にはもうラインではなく、こういう重要なことは電話で連絡してもらわなければならない旨を告げた。私はというと、正直ほっとした気分と、言いようのない何かに悩まされていた。娘が夫の実家で暮らすことについて、私は一つも了承していないし、一つも意見を言えていない。

 実母が気にしているので「学校へいくのであれば、どこで暮らしてもいい」とは言ってみたものの、内心、夫がまともに娘をコントロールしたり、危ないことを差せないなどできるのだろうかなどと思う。そして、私自身、捨てられたような気分がしている。

 ハムスター六匹と、息子と、実母と…実母はいつかは実家へ帰らねばならないし、帰って父と暮らすことがいいに決まっている。そう考えると、六匹のハムスターが癒しのように感じる。そして、淡々と、普通に学校へ通い、塾へ通う息子が酷く賢く思えて、自分はダメなように思う。

 外で出て働くことも出来ず、実母についてもらって、40も過ぎて何をしているのだろうと思う。普通の主婦にできて、私にはできないことの多いこと。

 鬱々とそんなことを考えると、頭が痛くなる。食欲が落ちる。

 考え続けるのもなんなので、100均でぼんやりみつめていた羊毛フェルトに手を出した。読める本がなくなったのもある。チクチクとやりながら、何とか気を紛らわせる。そうすると、少しだけまともな人間になれたような気がして、実母に言った「そろそろ、帰ってもいいよ。多分、大丈夫。何とかなるような気がする。勿論、いてほしい、いてほしいけれど、父さんも困るだろうし、母さんもつらいでしょう?」実母は「そうなのかな?」と、言っただけで、黙っていた。

 大丈夫、死にはしない。

 死ぬような病気ではない。

 心が疲れて、心が死んで、体に異常が出る病気だ。

 血圧を測っても、心電図でも、バイタルも正常な病気だ。

 封じ込めるための薬はあるし、医者からは波があるから、底になった場合はじっと耐えるしかないし、山になったら、動く。自分で試行錯誤して、生活していかなければならない病だと聞いている。

 死ぬような病気ではない。

 そう、それだけが救いで、それがだけが今の希望だ。

 つまりは、まだ離婚なんかできるわけもなく、離婚した途端、私は干物のように干からびるしかない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

まだ離婚していない 佐倉銀 @sakuragin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ