第2話 停滞して考えること

 毎日、実母に電話する。

 正直に言うと、幼稚園から小学校、小学校から中学校…子供らがどんどん上に上がるたび、ママ友との付き合いは疎遠になっいく。専業主婦だった人も大体は仕事を始めるし、仕事を始めると、なかなか会える機会もなくなるからだ。しかし、逆に言えば同じような悩みを持った人と話す機会もなくなるわけである。何か解決しなくてもいいし、現状のままでもいい、何のアドバイスもしなくていい。ただどうしただの、ああしただのと、ぶちまけて、ただ聞いてくれるだけでだいぶ人間は楽になるものだと、痛感している。

 ヘアサロの美容師、ボディケアの方、カフェのマダム…ちょこっと話すだけでだいぶ楽になるのだけれど、さすがに重い話をするわけにもいかず、子供らにも旦那への愚痴やこれからどうしようなどと、だらだら話されても迷惑だろう。だからといって、実母にもどうかとはおもうのだけれど、元々精神的に不安定で体の不調が直結している私のことを理解している私であるから、電話をかけて、今の状況を報告することで、実母も安心してくれるのではないかと、かなり、勝手に思って電話をする。

 その影響か、それとも、少しばかり落ち着いたせいか、本が普通に読めるようになってきていた。私には本が重要である。健康のバロメーターだ。一時期など一日一冊と言わず、もっと読んでいた。しかし、このところ、字を見るのもつらく、読んでも頭に入らず、非常に困っていた。書きなぐること、読むことは私にとってストレス発散である。

今まで、積読(読まずに家にある本)など考えられず、京極夏彦以外は一日で読んでしまうようなスピードだったのだけれど、ここ二年ほどたまりにたまって、買うだけ買って放置された本の多いことに驚かされる。やはり、私はかなり精神的にキテいたのだと思う。電子書籍が出回るようになって、紙の本は初版で絶版になることも多く、買わねばなくなると思うと、好きな作家の者はとりあえず買ってしまう…たまる…が続いていた。それが少しづつではあるけれども、読めるようになったことはライトノベルであってもありがたい。まぁ、多分、自室がなくなり、居間で寝ていても、起きていても、不機嫌な顔で見られることを考えると、落ち着けず、読む場所がなかったというのが最大の理由かもしれない。8畳の自室、テレビ付き、エアコン付き、鍵なしはありがたい。


 しかし、今更ながら、なんで私、旦那と結婚したんだっけなんて思い出す。

 好きなんていう、あいまいで不確かな感情だったかと言われたら、首をかしげる。年も年だったから、たまたま、つきあっていたという人と同棲し、デキ婚(最近は授かり婚とかいうらしい。今の日本らしい、配慮して配慮しすぎて、いつか差別用語になりまたおかしくなるんではないかと思うような言葉だ)というのが正しい。実母も実父も一人っ子の私に関して、結婚せずに実家で仕事はしていてもだらだら暮らすことをいい様には思っていなかったようであったし、それを感じながら、針の筵から脱却するがため、結婚したというのもある。多分、途中までは何も考えず、何も思わず、幸せだったのだと思う。しいて言うなら、家畜だ。食用の豚や、鶏のようなものだったのだと思う。未来など信じて疑わなかったし、子育てを終えたら、老後のためにお金を貯めて…なんて、思っていたのだから呑気だ。こうやって、梯子を外されるなんて思ってもいなかったのだから。

 にしても、政府的には子供が増えてほしいわけで、結婚して、二人で子供を育ててほしいわけで、そして、介護云々を考えると、離婚せずに二人で助け合って、早々に死んでいてほしいはずだろう。公共的にコストがかからない。しかし、もうそんなのは現代社会として無理だ。男の考え方も女の考え方も改めねばならない。結局、気長な話になるが、教育ということになるんではなかろうか。男であっても、女でもあっても、自分のことは自分でできる人間に教育し、育て、逆に自分にできないことをしてくれたり、できる人間に敬意を払い、結婚するならば、議論や、喧嘩となったとしても、どこかしらで落としどころを見つけられるぐらいの語彙力が必要である。そう考えると、ディベートは有意義なものだ。ただし、今の日本では、ディベートで押し付けたり、押さえつけたり、白黒つけるのでは意味がない。根っからの村社会である日本では家庭内でそれをしてしまうと、八割方離婚へまっしぐらとなるわけであるから、お互いの不満が爆発しない程度の落としどころを見つけねばならない。男が稼ぐ代わりに女が家事をすべてやるでもいいし、逆でもいい、男も女も働くから家事は他人に外注するでもいい。そこは二人の話し合いだ。一番いけないのは、こうあるべき形を相手に押し付けること。当たり前という名の主観的な価値観で相手を踏みつけることだ。もう、家という文化は破綻している。代々だの、家のため、家名存続など、どれほどの日本人がそれらを理解し守っていこうとするだろう。名もなき家事、金銭が生じない労働において、もっと、目を向けなければならないし、もっと、理解を示すべきだ。そこを政府は教育すべきだ思うのだけれど、そこまで至っていないのが現状だろう。私のような者が踏み台になり、未来、娘や息子がもっと生きやすい世界になることを望むほかない。

そして、まだ離婚していない。

真綿で首を締めるが如く、まだ離婚していない。

 どちらが締めているのかも、絞められているのかもよく判らない。

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