嫌なものは沢山ある。


僕は一定のラインより他者が自分の近くに入ろうとすると笑う。嫌すぎてどうしようもない感情をどこかにやりたくて、声を出して笑う。


「私」には友人がいた。大学1年生の頃からの友人。彼は英語のクラスが同じで、学科が同じで、そして、「私」の恋路を見守ってくれる人だった。


まァ、うん。過去形だ。僕はもう、彼と親しくできない。残念だが。非常に残念だが。


僕の誕生日の翌日が彼の誕生日で、だから「20歳の誕生日をすぎたもの同士の合法飲み会」をしようだなんて話した。彼には、好きな人がいて、その話を長らく聞いていた。彼女がいた頃の話や、今の恋路を聞いては「お互い上手くいくといいね。幸せになるといいね」なんて言っていた。


飲みに行った。実はこれは二度目で。1度目飲んだ時は、解散してから「男女の友情は成立する」だなんて2人で盛り上がった。男女サシ飲み?ドンと来い!だなんて言ってね。


そう、これもまた過去形だ。


2回目の飲み会は、1回目と同じ店の別店舗に行った。その後、飲み直そうと、コンビニである程度の酒とつまみを買い、飲み直していた。彼の方が酒が弱くて、ベロベロに酔ったようすで談笑していた。


不意にこちらを向いた友人だった彼の目は、酷く揺らいでいた、気がした。

そして「ねえ、いいでしょ」と距離を詰めてきた。


咄嗟に「酔っ払いー、やめな」と突き飛ばしてしまった。気持ちが悪かった。人間なんて信じるものでは無いとわかっていたのに、心のどこかで「この友人なら大丈夫だ」と思っていた自分に反吐が出た。


ねえ、いいでしょ、ではない、何も良くない。ガード固いねと言われた。当然だろう。私には何にも変え難いとずっと、1年間話し続けてきた彼氏がいるのだ。もちろん、その数週前に1度別れを告げられ、その後また恋人になれたという関係だったが、それも話していた。君も話していたじゃないか、ついさっきまで「あの子と恋人になれるなら何もいらない」と。


なんでだ、と目の前が真っ白になった。男なぞ、理性なぞ、欲望なぞ、そんなものなのだ。友人だった彼をホテルに押し込み、1人歩いて帰った。2時間を超える15000歩を超える距離をボロボロと泣きながら歩いた。


どうして、どうしてだろう。何が間違いだったのだろう。きっと全てだろうね。


自分勝手な僕が叫ぶ。どうしてだ、と。友達だと言ったじゃないか、と。男女の友情が成立する、と。欲なんて所詮そんなもんか、と。



思い出しながら書いているのだが、この事を思い出すと、どうも記憶が朧げな感じになる。たぶん、忘れようとしているのだろう。防衛本能(笑)なのだろう。



まァ、この話のオチ、として。散々望んでいた、他者への気持ちの軽薄さの生成をできるようになった。心底軽蔑し、落ち込んだのだろうね。ばかね。


お陰様で、だなんて自分勝手で皮肉な枕詞をつけていえば、彼氏に対する自己中心的な願いもある程度霧散したように思う。例えば、連絡が早く返って来てほしいだとか。例えば、もっと一緒にどこかにでかけたいだとか。例えば、いつかまた好きになってほしいだとか。


せっかく出来た、自分を慕ってくれる可愛い後輩に対しても、非常に冷めた気持ちが浮かんでしまう。地元の友人たちも。面倒くさい、とか、どうでもいい、とか。


ただ、薄く、軽く、付き合っていたい。ある程度話したい時に話して、全部それなりに。


しかしまァ、とうとうできてしまったこの感情を少し持て余してもいる。どうしようもなく、どうしようもないのだ。


他人に対して、まず嫌悪感が浮かぶ。他人に対して、気遣いが減ってしまった。その小さく大きい変化に僕は戸惑いを隠せない。


この感情とも、あと少しすれば仲良くなれるかな。


8.5.2021

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