第26話 嫌う大人の考え
「これに乗るのか?」
九條の要求の三人目、急遽呼び出されたマリが、目の前の軍用ヘリコプターに、少し蒼の瞳を大きくして呟く。
「そうよ、深夜にスカイツリーの一番上なんて、歩いて行けないでしょう? あら、出来るって顔ねマリ。私は良くても、バカ速&一瞬力のあんたと、見かけ倒しのユウには絶対無理よ。あと、警備員もいるから、空からの急襲の方が問題が少ないわ」
バカと、見かけ倒しは、顔を見合わせて同時に言った。
「正面突破でいいだろう?」
駄々っ子の母親のような、困った顔になった明莉が肩を落とす。
「バカ+バカはイコール、バカね。さっきも、正目突破とかユウが言っていたけど。あのね、二人に質問するけど」
バカ+バカは、また顔を見合わせた。
「はい、では第一問、あなたは出来るだけ早く浅井君を救出したい?」
二人が、ハイと勢いよく手を上げた。
「でわ、第二問、浅井君は無事に救出したい?」
二人が、ハイと手を上げた。
「でわ、第三問、体力には自信がある?」
二人が、お互いに顔を見ながら、おずおずと手を上げる。
「ブブー、はい、嘘はいけません、二人とも不正解」
目を合わせた二人の嘘つきは、そんな事は無いと手を横に振る。
その二人の髪を、いきなり鷲づかみにして、自分の手前に引き寄せた明莉。
「何をする明莉」
二人が文句を言うが、明莉の力はもの凄くて逃げられない。
「いいかな~~二人とも、良く聞いてね。無駄な時間を使う余裕は無いの。九条はたぶん私達を待っていると思うけど、浅井君が100%安全とは言えないわ。今の状態では、情報が少なすぎて安全性を確立出来ない。そして情報が揃っても危険性は残る。例え1%でも危険があるなら、浅井君が安全な可能性はFifth Fifty Dead or Aliveつまり確率は良くて50%なの。だからこの時点で、見栄や争いごとは無しにします。分りましたか? 保護者の私も疲れるし、なにより浅井君の命が掛かっている」
髪の毛を鷲づかみにされたまま、二人をグッと自分の顔に寄せて納得出来たか聞く明莉。
「You understand?」
うん、うん、と頷く二人をヘリの入り口から放り込んだ後に、明莉も乗り込んだ。パイロットに離陸を命じる。真っ黒に機体を塗った、所属不明のヘリが空中へと飛び上がった。
「もう……乱暴だな、明莉。そのバカ力で、格闘界に革命を起こせるぞ!」
力負けして、悔しいマリが文句を言う。ユウも窓から外を見ながら独り言のように呟く。
「まったくよね。私はマリとは違うから、口で言えば分るのに。大体バカって言うと、バカって、こだまに言われるわ」
にこやかな顔で二人の頭をガッツリ掴んだ、明莉の八十キロを越える握力が発動する。
「Sharappu!」
イテテ、とユウとマリが声をあげた。
「なにを小学生みたいな事を言っているのかしら? こんなバカな頭は潰しても問題ないわね」
その笑顔の怖さに二人は、両手を合わせて合掌して謝った。
ため息をついてから手を離した明莉は、足下に置かれた箱をガソゴソ探り始める。
「うん? 明莉、トイレか?乗り物に乗る前には必ず行くように、幼稚園で言われなかったか? まあ、見ていないから、ここでシーしても……」
おもいっきりグーで頭を殴られたマリ。
「バカ、アホ、なんて事言っているのよ。はい、これ。レーション。いまのうちに食べておいて。途中でのガス欠は勘弁だからね」
「レーションって、軍隊が使う携帯食料でしょう? もしかしてこのヘリも軍隊のもの?」
ユウの言葉に頷く明莉。
「相変わらず勘の鋭い事。そうよ、軍隊の協力を得ているわ。どこの国かは聞かない方が、あなた達の為にはいいわね」
「中学女子が、どっかの国の軍隊に協力要請ですか」
感心を通り越して呆れるユウ。
明莉の父親は世界中に信者を持つ霊媒師。そのツテと考えるのが普通だが、明莉自身も裏社会でマルチブレインと呼ばれ、かなりの権力を持つらしい。
もしかして明莉本人の力かもと思う。
そんなユウを見つめる明莉は、ユウの勘の良さがリアルな自分を、言い当てる事が怖かった。
リアルの明莉の姿に、この二人はどう思うだろうか。異能の力は、三人ともに、自分で望んだものではない。ある意味どんな力でも二人は、嫌い恐れはしないだろう。
だが、明莉が異能の力を使って得た、新たな“大人の力”はどうだろう?
もしユウが持つ能力、霊と話せる、交霊を使ったら全てが知れてしまう。
浅井君とユウとマリ、四人の関係は失いたくない。
……大丈夫、ユウは能力を使い、仲間の考えを覗いたりはしない……
「まったく、大人の狡い考えね」
明莉は、計算無しで人と接する事が出来ない自分が、仲間と一緒にいる時だけは嫌いになる。
「うん? 何か言ったか?」
耳の良いマリが聞き返す。
「……計画を話すわ。まずユウを一番高い所へ降ろす。下から見つかっても、直ぐにはヘリでも使わない限り邪魔はされない。ただ、今日は風が強いから転落には気をつけて。ヘリも長い時間はこの場に止まれないから、旋回してユウを待つ。終わったらこれで連絡して」
軍隊用と思われるレシーバーをユウに渡した。
「これはいいわ。余計な電波は交霊に支障が出る。終わったら直接あなたの霊へ呼びかける」
ユウは明莉にレシーバーを返した。
「分ったわ。でも通信を送るのは私によ。妹じゃなくてね。それだけは間違えないで」
ユウは分ったと頷いた。
・
・
・
さて、その頃捕まった僕は、とあるビルの一室にいた
「おまえは俺たちが怖くはないのか?」
見張り役の組織の男が脅しをかける。ウトウトしていた僕が眠そうに目を開く。
「う~ん? それより眠いなあ。おじさん達は眠くないの?」
見張りの二人の男は、僕の側に来て強面の顔をより強調する。
「おまえは、臓器を売るか、ペットとして外国へ売られか、どっちがいいんだ?」
「ちょっと待ってね。うん~どっちがいいかなあ?」
真面目に考え始めた僕に、イライラする二人。
「あのな、そこは選択するんじゃなくてな、どっちも嫌です! 助けてください!……だろう?」
「そうだぞ。あと、泣いたりすれば、もっといいぞ」
僕はキョトンとした。
「そうして欲しいなら、そうするけど。その方がいい?」
その答えにキョトンとした二人。
「そんな事を、俺たちに聞かれてもなあ?」
僕は両手を上に上げて、伸びをしてあくびする。
「ふああーーヒマだよね。でもあと一時間くらいかなあ。それまでお話でもする?おじさん達」
「お話だって? 何の話をするんだ? それと一時間ってなんの事だ?」
「お話はなんでもいいよ。おじさんが話したいことを話して。一時間はユウ達の事だよ」
「ユウって誰だ?」
「仲間だよ、あと一時間でここに来ると思うよ」
「おまえを助けに、仲間がこんな所に来るって? クク、ハハ」
僕は笑い始めた二人を見てキョトンとした。
「あなにかおかしな事を言ったかな?」
「ここはな……金と暴力が集まる所だ。そんな所にノコノコ来るバカはいねーよ」
「そうかーここは、危険な場所なんだね。でも、ユウ達は来ると思うよ」
「くどいなおまえ。来ないんだよ! 自分の命より大切なものはないんだ。仲間の為に命を賭ける? そんなのはアニメの話か、本当のバカにしか出来ない」
「うん、うん、ユウとマリはバカだから絶対来ちゃうよ。明莉もお目付役で来ちゃうな。どうしよう? ここ危険な場所なんだよね?」
また考え始めた僕に、イライラする二人。
「だから、来るはず無い……そう言っている……」
「そうだ! おじさん達にお願いができた」
「なんだいきなり?」
「危険だからここには来ないように、ユウ達に言って欲しい。だめかな?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます