第21話 やばい粉
学校へ登校している時に、最近増えてきた、僕の周りで起こる事件の一辺を。ユウに聞いてもらう。
「ねえ、ユウ相談があるの」
「うん? 浅井君どうかしたの?」
僕の心に、ユウの警戒心が伝わってきた。
(浅井君が相談を持ちかけてきた……嫌な予感がする)
どうも僕は問題ごと、とくにややこしいのを収集するのが趣味に思える程、いつも何かとてつもない事柄を起していた。
ドキドキしながら待つユウに、もぞもぞしてから僕が内容を語り始めた。
「あのね、このあいだネットで注文した」
「何を?」
「美味しそうなパンの素、プレミアムパンミックス」
そんな当たり前な物をネット買い? ユウは首を傾げる。
「パンミックスなんてネットで買わなくても、その辺に一杯、売ってるじゃない? まあ、最近手作りパンがブームらしいから、珍しいパンミックスがあったら、買ってみたくなるか」
最近のパンミックスは、バターミルクパウダーやカカオが入ったものも売られている。
「うん……プレミアム、世界一の純度って書いてあったから」
「プレミアムはいいけど、純度って? パンミックスに純度なんてある?」
「うん、そうだよ、純度が高いって書いてあった」
なぜパンミックスの純度が気になる? ユウが不思議がる。
僕の前でユウは一応、パンミックスにおける純度の意義を考えてみる。
「大吟醸のように麦を削ったのかなあ?」
「大吟醸ってなあに?」
「大吟醸は精米歩合50%以下の白米で作るお酒。米を削って芯の部分を使うの。穏やかな香りでフルーティな味わいがするわ。白ワインみたいな味ね」
「えーっと、一応ユウは中学生で十五才だよね……」
「まあね。それで? プレミアムパンミックスがどうしたの? 百キログラム届いたとか?」
「それはこの前頼んだお米だよ」
最近、爆発的に増えたトラブルに、ユウが心の中で思う、
(……やっっぱり、嫌な予感がする……)
僕は悪霊に憑かれたユウが感心するくらい、次から次へと問題を拾ってくるようになった。というか、ユウと知り合って、普通だと思っていたアクシデントが、まったく普通ではなく、回数も内容も異常だと教えられた。
しかもその内容が「そうか! まだその手があったか!」と感心するくらい、巧妙で絶妙なタイミングで実施される。しかも僕、自信はまったく自覚はない。
時々「今ですか? なんで? よりによって今? そんな事をしちゃうかな?」とユウが、疑問符を連発する事も多かった。
「で? 今度はなんですかね? 問題というのは?……あ、ちょっと待って!」
右手を胸に置いて深呼吸する。僕はいつもユウの予想を、斜め横角度八十度で想像の高さを超えているらしい。
僕のびっくりのトラブルに備え、ユウは心臓を叩いて、首と肩を回して、準備万端整え、さあ来い! と体勢を整えた。
「はい、トラブル内容をどうぞ!」
「パンミックスの粉がおかしい」
何か凄い事が来ると思っていたユウは、ガク、と脱力しながらひとまず安心する。
「ふ~そんな事か。良かったホッとした」
「良くない~~困っているのに~~」
「粉がだめだったら、捨てればいいわ。はい、問題解決ね!」
「それが、捨てられない」
「はいはい。捨てられないくらい買っちゃったのかな? ネットの注文の時に入力の桁間違えた? 前回のお米騒動では、二十キログラムを二千キログラムって入れたわね。二トンの米にビックリしたわ」
「今回は違う、ちゃん一キログラムを頼んだし、量はぴったり。でもねぇ~~」
「問題は量じゃないの? ちょっと待って、再び心の準備をさせて」
ユウが準備運動を始めた。右手を胸に置いて深呼吸、心臓を叩いて、首と肩を回して……
「請求金額が120000000円だったのー」
「わ、わ! いきなり言わないでよ! まだ準備が出来てない」
「ごめんね」
「それで何だっけ? あ、請求金額ね、えーと120000000円って、一、十、百、千、万……えっ! 一億二千万円の請求!?」
……そのうち浅井君のトラブルのショックで病院に運ばれそう……
「一キロで、一億二千万円の、プレミアムパンミックス!? 馬鹿高過ぎ! そんな事あるはずはない……まてよ?」
……ない、と断言出来ないのが、トラブルを磁石のように吸い付ける浅井君の諸行だった。
「そうね――まずは、その粉を見せてよ」
「うん、家に置いてあるよ」
・
・
・
その日は急遽、学校の帰りに僕の家に寄ることになった。
「おばさん、こんにちは!」
何度か僕の家に寄っているユウに、僕の母親が声をかけた。
「あ、ユウちゃんよく来たわね。泊っていく?」
「えーと、直ぐに帰りますから、おかまいなく」
「そう、じゃあ、お風呂入って、食事の用意と晩酌つける」
「えーと、おばさんおかまいなく。覚えているかと思いますが、私はまだ中学生なので」
「そーなの、残念ねえ。うちのお父さんは晩酌好きだったのよ。あ、ビールはどう? アルコールが少ないから、大丈夫でしょう?」
「駄目です! アルコールの量は関係ありません、二十歳未満の飲酒は法律で禁止されています」
「そーなの? じゃあ、やめとこうね」
「はい、その方がいいと思います。それではハチ部屋へお邪魔します」
「あ、ユウちゃん、その前に」
「はい?」
「ここで服を脱いでいって」
「はあ? それはなぜでしょう?」
「洗濯よ。全部洗っちゃうから、パンツも靴下も全部脱いでね」
「たしかに暑くなってきましたが、ここで真っ裸になると、病院か警察に通報される恐れが」
エアコンなど殆ど使わない僕の家は、窓とか玄関とか全開だった。
「あらそうなの。残念ねえ――じゃあね、あ、ユウちゃんどこへ?」
「お邪魔します! おかまいなく」
……はあ、やっとハチの部屋に入れた……
僕の前で溜息をつくユウ。
「いつもの事だけど、おばさんを突破するのに、10分は掛かっている」
「うん? お母さんが、どうかした?」
「いや、おばさんは間違いなく、浅井君のお母さんだなあ、と思っただけ」
「そんなのあたりまえでしょ、おかしな事を言うね」
ケタケタ笑う、僕の頭をポンと叩く。
「もう~あんたは幸せな奴だよ。私と仲がよい以外はね」
「うん、でもユウと仲がいいのは、とっても幸せだよ」
「また、そんな恥ずかしい事をハッキリ言う……」
私は幸せです……結婚式の花嫁みたいな言葉を臆面もなく言ってしまえる僕を見て、ちょっと羨ましいかも、とユウ。
「ひねくれたわたしには真似できないなあ」
「で、プレミアムパンミックスはどれ?」
「あーこれだよ」
僕が取り出した大きめのダンボール箱。中には小分けになったビニール袋、その中には粉が詰まっていた。一つの袋を開けて、粉を嗅いだり触ったりしてみる。
「うーん、小麦粉とか強力粉とか、そんなのと違う感じがするなあ」
「やっぱりパンミックスじゃないの? ユウにはこれが何かわかる?」
「うーん、違うのは分るけど“何か”は分らないなあ、ちょっと舐めたらわかるかも」
「あ、でもねユウ、この間のように食べ物じゃないかも」
「そういえば、浅井君が買う物は私の想像をいつも超えてるわね。この間はポップコーンにかける香料を注文したら、アメリカの強力洗剤が届いて……」
ケラケラと思い出し笑いを始めた僕。
「あ~そういえば、そんな事あったね」
「そんな事ばっかりでしょう? 浅井君の騒動ってさ」
「ごめんごめん、あの時はどうしたんだっけ?」
「私が舐めたよ。数日舌が麻痺した……舐めるのは危険かも」
「……これがなにか想像つかないよね。どうしよう一億二千万円なんて払えないよ、返品できないかなあ?」
「返品かあ……ここまで開けちゃうと、どうなんだろう?」
考え込む僕の頭をポンと叩いて、ユウによい考えが浮かんだようだ。。
「泣かないでよ、なんとかするから……まてよ? そうかアイツを呼ぼう!」
「え? 誰の事を呼ぶの?」
「こういう事にうってつけの女がいるじゃない……フフ」
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