第18話 マリの身体


 マリは幼女体型で、よく小学生の低学年に間違わられる。

 身長百三十九センチで針金のように細い身体と手足。

 小さいとか、ちっちゃい、幼女などはマリへの禁句事項だ。


「思うに、あなたが神代先生に勝てないのは、その身体のせいかな?」

 マリの怒りなど、気にもせず明莉は話を続ける。

「どういう意味?」

「逆に言えば、その身体だからこそ、いい勝負が出来ているのかしら?」

「いつも分らんが、今日は特に、明莉の言っている意味が分らない」


 上から下からマジマジと、マリの身体を見た明莉は話を続けた。

「勝負は三本勝負、いつも一本ずつとり合って、最後はさっきみたいにフラフラになり、ガス欠状態で負けちゃう。マリは全てのエネルギーを、勝負の決着前に使い果たしている」

「それがマリの身体と何の関係がある?」

「そうねえ、フフ……ここかな?」


 突然、マリの身体に触り始めた。明莉には気を許しているし、腹が減って集中力を切らしている、とはいえ、マリは懐に入り込んだ、明莉の身のこなしに驚く。


「明莉、おまえも、武道とかやっているのか?」

「うん? そんな脳筋はやっていないわ。あなたみたいな過激な運動は、美容と脳に悪いわ。ただ仕事柄、敵が多いの、だから護身術はやってる、ユウにも危ないから教えているわね」


 ユウの護身術の師匠は明莉、はそう言ってから、マリの身体を触り始めた。

「まあ、ユウのは私が教えた護身術に自分の霊能力を乗せているから、特別だけどね。さて、ユリの研究の続きをしないと。


 今度は入念にあんな所やこんな所も……されたマリが切った事のない声を出す。

「何をする明莉――こんな公衆の面前で堂々とそんな事……あ、やめて、明莉……」


 真っ赤になったマリの身体の、表面積の約70%以上を入念に触り、明莉は納得したようだった。


「やっぱりそうだわ。あなたの身体は、殆ど骨格筋、種類は白筋で出来ている」

「あーそんなとこ……こっかくきん?」


「筋肉は二種類あるの。骨格筋は、腕や足などの身体の骨格にくっついて、意識的に動かすことができる筋肉の事」

「でも筋肉って意識的に動かす以外は必要ないだろう?」


 ペタリ、明莉はマリの頭に手を置いて首を振った。

 身長差二十センチ、もちろん明莉の方が背は高い。


「たしかに骨格筋は、筋肉の50%くらいの比率を占めるわ。でもあなたが意識しないで、心臓を動かして、この少し足りない脳に、栄養を送っているは誰のおかげかしら?」


 言葉より身長差にムカついたマリは、胸を張って大きな声で答えた。


「当然、マリのおかげだ!」

 マリの墨を梳いたような黒鉛の前髪の上から、額をペチペチしながら明莉は頷く。


「そう、あなたのおかげよ、マリの平滑筋と心筋のおかげ。平滑筋は内臓を守り、内臓を活発にする筋肉。心筋は、心臓を守り心臓を活発に動かす筋肉。自律神経によって、コントロールされているの」


 頭をペチペチされながら、いまいち分らないマリは答えた。


「筋肉は筋肉だろう?」

「あなたの場合は、骨格筋が70%もある。内蔵を動かす筋肉を減らして、自分の意志で力を発揮する筋肉に代えている。その為に大きな器では生存すら危うい。だから、その幼女の身体を保っている」


 明莉のペチペチの回数が目に見えて増えた。


「そして筋肉の質が違う。白筋と赤筋。白は一瞬で力を出す事が出来るけど、耐久性が低い。赤は安定した力をゆっくりと作り出す。その割合もマリは白筋が異常に多い。ホモサピエンスの常識を逸脱する程に」


 頭上にはてなマークを表示させ、迷宮のラビリンスに入り込んだマリの頬を両手で挟み、ギュウ~っと潰しながら、明莉は言い聞かせる。


「短距離の選手や重量挙げみたいに、一気に力を使う人には白筋。マラソンのような長時間エネルギーを必要とする人には赤筋が多いの」


 頭上に大きなはてなマークが増え、あほ毛が生えるのを見て、さらにギュウ~っと力を込めた。


「だ・か・ら・ね! あなたみたいな、一瞬だけの火事場の馬鹿力を出すのは、白筋野郎なのよ! You understand?」


 菱形になったマリの口から言葉が漏れた。


「わ、わかった……」

 マリの頬を挟んでいた手を放して、明莉は推論を唱え始める。


「ここからは私の考えだけど、マリは骨格筋が多く、そして殆どが白筋で出来ている。人類の常識からは、ちょっと考えられない肉体の構造だわ。たしかマリの体重は32キロだったわね。身長は百三十九センチだっけ?」


 気にしている自分の幼女体型を、ズバリと言われて怒り出す。


「お、おまえ! 自分が少しくらい背が高いからって……それにマリの身長は152センチだ」


「十三センチもサバよんでいるわね。よく小学女子に間違えられるくせに……しかも低学年」


「な、なにを……そんな事は殆ど無いぞ“可愛いお嬢ちゃん、お菓子あげるからこっちおいで”と言われる事はたまにあるが」


「少しはあるわけね。あと、変なオジサンについていったらだめよ」

「お菓子だけもらって、ぶっ飛ばした」

「おじさんが危ないって、言おうとしたのだけど、遅かったか……その幼女の姿は、変な色気があるから気をつけなさい」


「今、幼女って言ったな!」

「うん。まさにアニメの主人公役の天使みたい。なんでそんなにそそる姿、格好なんだろう? それが自分の成長まで止めて、戦う事を優先した姿なんだから、ある意味アニメ的な奇跡的な現象ね」

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