第17話 アカリとマリ

 アカリがマリと出逢ったのは小学生の夏。


「……明莉……」

「……うん、サクヤ? どうしたの? こんな朝方に」

「私にも仲間が出来ました。明莉にも会って欲しいのです」

「いいけど、今あなたが私の身体を使っているでしょう?」

「そうですね。これから明莉に身体を返します。私の仲間に会ってください」

「ちょっと! いきなり身体を渡されても状況が分からないし、咲夜の仲間も見つけれない」

「……大丈夫」

 咲夜が眠りに入り、明莉の意識が急激に覚醒する、

 潮騒の音が聞こえて来る。

 目を開けると朝焼けが眩しい。

 海風が吹いているここは、どうやら岬の灯台らしいが。


……なんでこんな所に――また私が眠った後に、咲夜が遊んでいたのね、あれ?……


 目の前に幼い少女の姿があった。

 墨を梳いたような黒鉛の髪が海風に流されている。

 その大きく開かれた瞳は蒼に輝き、強い意志を称えている。

「ここは何処なの? あなた昼間の?」

 面倒くさそうに、人形のように硬質な表情の少女は口を開いた。

「鬼灯マリだ」


 ……それ以来、咲夜も含めて三人はずっと一緒だった。


 道明寺明莉(どうみょうじ・あかり)十五才

 淡い蒼い色の髪はモテカワヘアで、肩にかからないくらいの長さ、軽くパーマをかけている。 陶器のようなきめ細かい肌、均整がとれた顔立ちは良く大学生と間違われる、スタイルもモデルなみで、ヒョウのような美しく艶やかな肢体を持っている。 瞳は高い理性を見せ、普段は冷めた表情をしていており、中学生の間でCool Eyeと呼ばれる。裏の世界にも精通しており「マルチブレイン」と呼ばれている。

  都内で文武両道を目指す私立中学の特待生。


 紺のチェックのスカート、裾に白い横のラインが入っている。白いシャツにモスグリーンのネクタイを胸元で結ぶ。クセは髪の毛をいじる、時々英語を使う「Sharappu!」「You understand?」などユウとマリがおバカな行動をしたときに使われる。サクヤを生かすために、アンドロスタンジオール,アンドロステンジオン,バンブテロール,ボルデノン,クレンブテロール,クロステボール,ダナゾールなどを摂取してドーピングしている。


「浅井君とユウとの出会い、この六年で一番変わったのはマリなのかも……あららマリ、しっかりしなさいよ!」


 マリが大きな道路をふらふらしながら歩いている。

 蛇行進行で進むマリを調整しながら、帰宅の進行方向を巧みに制御する明莉。


「むむ、ダメだ。エネルギーが足りない」

 “牛丼大盛・とろろ・キムチ・ウナギ乗せ・つゆだく・紅ショウガ箱・とうがらし山積”牛丼屋の全勢力を上げた最終兵器のフルアーマーどんぶりも、マリには腹の足しにならなかったようだ。


「さっき、あんだけ食べたでしょう?」

「ご飯は一日六食って決めている! ああ、腹減った」

 幼い顔立ちだが、大きく開かれた瞳は蒼に輝き、強い意志を称えているはずだったが、腹を空かしてマリは、感情を外に出すというか凶暴になっていた。


 その姿を見た明莉は、クスリと笑った。


「何がおかしい! マリは死にそうなのに! 明莉は嬉しいのか?」

「やっぱりマリは変わったなあって。前はそんなふうに、他人の前で感情出したりしなかった」

「そうかなあ」

「そうよ、出逢った時の事覚えてる? あなた仏頂面で、いきなり“鬼灯マリ”って自分の名前だけ言ったわ。妹のサクヤから身体を戻されて、目が覚めたばかりの私は、正直、どうしようかと思ったわよ」

「挨拶しただけだ。そんな事より、なんか食いたい」

「我慢しなさい、もう少しで家につくからね。変化はユウのおかげかな。あとは浅井君の天然か……よく言えば裏表がない正直な言葉と行動。悪く言えば、少しは考えてから話しなさいよユウ! たまにムカつく! 私個人としてユウは後者の方がしっくりくるわね」


 意識がユウへと飛び、ムカつく事を思いだした明莉が機能停止したため補正機能が働かなくなったマリが歩道からはみ出す。慌ててマリの襟首を引っ張り、歩道へ連れ戻す。


「こらフラフラするな。車に轢かれたらどうするの! もう少しだから我慢しなさいよ」


「轢かれた車が大型トラックで、北海道の蟹が満載されていたなら許す」

「また分けの分らない事を……」

「わけ分らなく無いー! 今なら蟹の甲羅ごと丸ごと食えそうだ!」


「はいはい、蟹の甲羅に含まれる、ポリ-β1→4-グルコサミンがとれて、ますます、無駄に健康になりそうね」

 ん?……不思議そうな顔をしたマリ。

「なに、そのグルコさんって?」


「言っとくけど人の名前じゃないわよ。キトサンて言えばいいのかしら。美容品によく使われているわ」

「きとさん? やっぱり人の名前みたい……マリに美容品はいらない」

 人形のように硬質な表情と透明感がある白い肌のマリ。

「そうね、マリの肌は綺麗だわ。よく食べてよく運動してよく眠るものね。でもね」

「なんだ? 人の身体をジロジロ見て。何か言いたいことがあるのか?」

「その暴力的な食欲で、なんでそんな細くてちっちゃいのかな?」

「私のナイスボディがなんだって?」

 蒼色の大きな瞳が明莉を睨んだ。

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