第14話 僕と三人の女の子

「うぁあああん、ケンカしちゃだめだよ~~」

 おどろいた二人が足下を見ると、自分たちの裾を引っ張りながら大泣きする小さな男の子、そう僕、浅井ながまさがちょこんと座っていた。


「こら~~小さな子供を泣かすな~~!」

 遠くから、もう一人が、文句を言いながら走ってくる。

「ケンカしちゃーダメだよ」

 僕はアカリとマリの手を握った。

「はい、仲直りね! ”みんな普通でなんにも変わらないから”」


「こんな子に接近を許したのか? 何も感じられずに手を握られた?」

 驚くマリと、同じ表情を浮かべるアカリ。

「ありえないわ。戦闘態勢に入った私が察知できないなんて」


 その時背が高い、一人の同年代の女の子が走り込んできた。

「ハァハア、やっと追いついた……あんた達さ、一般人の子供の前で、その力で戦ったから迷惑だからね」

 茉莉花優紀、ユウが、呼吸を整えながら、アカリ、マリと順番に指を指す。

 そして、まずはアカリの本性を見抜く。

「あんたは二つの心が葛藤している、とっても頭が良いのね。それに運土能力も高い、二人分の頭脳を持っているからね」


 マリを見たユウがまたも本性を見抜く。

「そしてあんた心を無くしている。超人として育てられた現代のヘラクレス、特別な力は、他人をあなた達を遠ざけるだけよ」


 驚くアカリ、同じ表情のマリ。

「なんであなたに、そんな事がわかるの?」

 アカリに続いてマリが発する。

「マリには心は最初からなにも無いはずだ。無くすものとはなんだ?」


 同時に二人から問われたユウは、首をかしげる。


「さあ? なんでって言われても、私は思った事をそのまま話しているだけ」


 呆気にとられ、戦闘モードを解除した二人。

 二人の手を握った、僕が嬉しそうに言った。

「よかった~~じゃあ、みんなで砂のお城を直そう~」



 湿った砂をプラスチックのバケツにかき込んでユウが運んできた。


「ところで、あなた達はなんて呼べばいいの?」

 アカリは僕と、ユウに聞いてきた。

「あ、そういえば名前を言ってなかったね。私は茉莉花優紀、ユウって呼んで、こいつは……知らない、初めて会った」

 すかさずマリが答えた。

「こいつの名目は……確か、浅井。名前はしらん」

 僕が可哀そうな紹介をされていたが、自身は嬉しそうに砂のお城の築城をしている。無表情な顔で砂をかき集めるマリとは好対照。


「あのマリって子、なんか人形みたいね」

 アカリの言葉にユウが首をかしげる。

「人形というか、真っ白な子供みたい、生まれて間もなくて、何も知らない感じね」


 アカリが怪訝そうな顔で見た。

「あなた、わたしの父親みたいに、霊能力者なんかなの?」

「そんなの知らない……死んだ人や生きた霊が見えて、話が出来るくらいかな」

「それって十分変っていると思うわ。私には霊感はまったくないけど、あなたの勘の良さは凄いと思う。ほとんど心を読んでいる」


 ユウはそうかなと少し考えてから、アカリを見た。すべてを見通すような瞳。

「あなたのように、二つの心を持つ方が変っていると思うけど」


「だからなんで分かるの? 一応、それってわたしの超秘密事項なんだけど」

 先ほども言われたが改めて、CTスキャンのように完全に見通されたアカリ。

「そうなの? そんな事よりあの赤ちゃんを、もう少し面白くしてみない?」

「うん? マリの事? それは面白そうだけど、何かいい計画があるの?」

「へへ、これなんか使えそうじゃない?」


 二つの小さなバケツを目の前にぶら下げるユウ。その顔がイタズラぽく笑った。



 懸命に築城中の僕が、マリに色々指示を出す。

「そこを掘って~~僕はこっちから掘るから、途中でトンネル繋がる」

「トンネルはお城にはいらないと思うのだが……」

 僕の指示に疑問を持ったマリが、不思議な感覚に襲われる。

 少しだけ人間らしく、雰囲気が変わったマリに僕が疑問を持った。

「あれれ? どうしたの~?」

「いや、いつもは命令されるのが嫌だったんだが。おまえの命令はなぜか心地良い」


 僕はペタペタと、お城に砂を貼り付けながら答えた。


「命令? そうじゃないよ~~お願いしているの。ともだちに」

「ともだち? 誰のことだ?」


「あんたのことよ!」

 ザーザー、マリの後ろに廻ったユウが、バケツに入れた海水をかけた。

「フフ、そんな攻撃は、マリには通じない……」

 一瞬で身をかわしたマリに、ジャバアーー、ユウのバケツ攻撃を回避して安心した鬼灯の頭上を、あかりのバケツ海水が襲った。


「あら、残念ね。攻撃は一回とは限らないわよ……キャハハ」

 海水をかけられた鬼灯は髪の毛からスカート、ストッキングまでもズブ濡れ。


「おまえら……ぶっ殺す」

「キャハハ、逃げろ~」

 同時に逃げ出す、ユウとあかり。それを見て楽しそうに笑う僕。


 そして心の中で思うアカリ。

(そうなのサクヤも楽しいの? 良かったね。私は? フフ、案外楽しいわ)



 一人の長身の女性が四人に近づいてきた。気配に気がついたハチ以外の三人。

 高い日の光を浴びて、高い身長の腰まである髪の毛は金色に輝く。


 まるで海外モデルのような背の高さと、完璧なラインを描くスタイル。

 深紅の髪が長く、形の良い腰をも越えて、風に靡いている。海を見るその視線は、きついツリ目で細く長い眉と合わせて、戦国の戦乙女、巴御前もかくありな壮絶な美しさ。


 強い風に美しい髪を耳にかけた、30歳くらいの見た目の女性はマリに言った。


「ほう、マリ、どうした? ずぶ濡れだが、随分楽しそうだな」

「あ、七海婆ちゃん、ごめん、指示が聞こえる範囲から外れてた」

 走り回っていたマリは、七海の命令を忘れていた事を思いだし、急に真顔になり立ち止まった。


「あのね、今日ね、僕に二人も、ともだちが出来たんだよ……それで一緒に遊んでいたのだから、怒らないでね」

 七海に、頬を赤らめた小さな僕が懸命に話す。


「なるほど……いい盟友を得たようだな、浅井、マリ」

 頷き、微笑んだ七海に、僕が言葉を続ける。

「それでね、もう少しで完成するのお城。だからね、まだ連れていかないで欲しいの」

 

 続けてお願いする僕の髪を撫でる七海。

「盟友はまだおまえと一緒にいたい、と言っているようだが?」

 七海が問うとマリは動きを止めた。


「マリは……どうしたらいいか……わかない」

 ジャバアーー、混乱するマリにまたも後ろから、ユウとアカリがダブルでバケツの海水をかけた。


「お、おまえら、人が困っているのに……ぶっ殺す」

「一人で格好つけて悩んでいるからよ! アハハ」


 アカリが逃げだし、ユウが後に続く。

「きゃあ、マリが怒った~~逃げろ~~浅井も逃げろ~~」

「ええ? 僕は何もしてないよー」


 無理矢理ユウに手を引かれ逃げるはめになる僕。


「待て~おまえら~!」

 追いかけるマリ。


 マリの祖母、腕組みをして長身の身体を真っすぐに伸ばし、七海は嬉しそうに四人を見ていた。

「マリどうやら心を必要とする時が訪れたようだな。それにしても浅井は失敗作なはずなのに、見事に異能の三人をまとめた。これは調べる必要があるな。明日からは一般の家庭で暮らすが、もし必要が生まれたのなら、また、研究所に戻す必要があある。だが、この状況を見せつけられては……鬼との戦いなど、この子達にさせたくはない。普通に育って欲しいものだ……ふぅ、それが無理なのは良く分かっているはずだろう……七海」

 

 四人は、海辺の波を受けて、ビショビショに濡れながら、その日は夕暮れまで遊び続けた。


 僕は一般家庭に引き取られ、記憶の改漸が行われ、存在とこの大切な四人の出会いは曖昧になる。

 ユウ、マリ、アカリはその後、頻繁に逢うようになり、異能な力を持つ孤独から救われた。

 それは僕が言った”みんな普通だと”とすべてを受け入れる心が繋いだ仲間だった。

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