第10話 初デート?

 原宿のメインストリートを、普通の少女達と群れながら歩く。

 みんな楽しそうに、大して意味を持たない会話に、笑い、喜びながら歩いている。


「う~ん、爽快な気分だわ! ホント、普通が一番いいわね」

 後ろを遅れて歩いていた僕は、ユウの横に並ぼうと、勢いをつけて前に出るが、勢い余ってユウを追い抜いてしまった。それを見たユウは、さりげなく歩く速度を調整する。


 二人は並んで歩き始めた。


「今、普通が良いって、言った?」

 僕の問いにユウが鼻歌交じりに答える。

「うん、いいね、普通の女の子って、その言葉自身が心地よい。とってもね」

 僕は首をかしげる。

「いつも普通にこだわるけど、ユウは普通でしょう? どこか変っているところあるの?」

 僕のユウを普通という言葉に反応したユウ。

「さすが、クシティ……そうだね、私を普通と言うか。まあ普通だね。飯も食うし、おならもするし、こうして買い物もするしね。悪霊が憑いている以外は割と普通だわ」


 マリが前に口にした”クシティ”の言葉がユウからも出た。

 気になって、単語の意味を聞こうとするが、“おならと悪霊”の変った組み合わせの単語と、ユウの大きな声に、周りの少女達がこっちを見たので、その機を逃がす。


「しーぃ! 声大きすぎるよ、みんなこっち見てるよ」

「あーらーそう? 私は全然平気よ。悪霊のせいで起こる騒ぎにくらべれば、多少、頭がおかしいと思われえうくらい、どうってことないわ」

「もーユウ~声でかいって言ってるでしょ? 知り合いがいたらどうするの」

「いいじゃん、知り合いにも聞いてもらえばね。悪霊憑きでも、普通に休日をしている所を是非見て欲しいわ」

「だかーらー声でかいーーシ~~ィイ!」

 僕が人差し指をユウの目の前に一本立てた。



 しばらく歩いた後、ユウが提案する。


「ご飯食べようか」

 ユウの提案で入った小ぎれいなレストラン。

 アレに気がついたのは、オーダーが運ばれてきてからしばらく後の事。


「いただきまーす!」

 ロシア風ハンバーグとエビグラタンのホワイトソースが運ばれてきた。

 ユウと一緒に、手を合わせてから食べ始める。

 湯気が立ち上る熱々のハンバーグとグラタン。

 ユウとは違うものをオーダーして、半分ずつに取り分けて食べるのが新鮮。

 なんか恋人同士みたい。うん? 僕は一応彼氏だよな?


「美味しーい」

「うん、美味しいね」

 二人とも顔中笑みを浮かべて、パクパク食べ続けている。

 気がつくと、お店の女性従業員がテーブルの横に立っていた。

 一人、気がついたユウが食べるのを一旦中断。

 食べ続ける僕の頬にホワイトソースがくっついてる。

「もう~~浅井君、顔にチーズついているよ。とってあげようか? うふふ」

 結構です、と右手で阻止する僕。その時、お店の女の人が近づいてきた。

 ユウはそれまでは、笑みを浮かべていたが、ちょっと真顔になった。

「何の用ですか? オーダーは全部来てますよ?」

「あ、そ、そうですよね」


 僕は思った、何か様子がおかしい。お店の人は、少し怯えているように見えた。


「もう一人いらしゃったように思えて……」

 おかしいな……と首を振りながら帰っていくお店の人。

 ユウも何かおかしいと感じた、いないはずの3人目に。

「もしかして……この人」


 懸命に食べ続ける僕の、横の席に座っている見知らぬ女性。

 ユウも僕も店が混んでいるので、相席かと思っていたが……違ったらしい。


「ああ、またか……もう勘弁してよ」

 ユウの霊感は強力で、霊体はハッキリと見える。それは時々人間と間違うくらい。そして、その影響を受け、素質は有るらしい僕にも人間のように見えてきた。

 ユウには随分遅れてだが、隣に座る女性を認識できた。もちろん人間ではない。


「まったく……冗談じゃないわ!」

 ユウの険しい表情など見てない風で声をかけてきた、人間ではない女性。

「は~い! こんばんは~あなたって凄い霊力ね」

「はぁあ、そうですかね」


 力なく答えるユウに女の霊はのりがよかった。


「ちょっと、話を聞いてよ、最近話す人がいなくてね。なんか、とても強い力を持った奴が出てね、私たちも怯えて隠れているのだけど、そいつのせいで霊波動も狂ちゃって、普通の霊能力者じゃ、周波数が合わなくなっちゃて、会話もできないの」


 近くの道路で事故亡くなったと、自己申告してきた三十二才の女の地縛霊。


「あの、食事中なんですが……後でいいですか」

 そんな僕の言葉は、無視で勝手に話し始める女の地縛霊。

 料理が冷める~と思ったが、そんな事よりやばい展開になった。


「アハハ、元気に話す幽霊なんておかしいでしょう? ボソボソ話す方が霊らしいかな?」

 僕は初めて会話した幽霊に言葉を返す。

「十分元気そうに見えます。人と変わらないくらいに。死んでいるとは思えません」


 僕の声は店が混雑しているので自然に大きくなった。

 僕が手振り交えて、女の霊と話す姿を店にいる人達が注目する。


 当然、独り言に見えたが、店員の一人は違っていた。

 さっき、ユウのテーブルに立った女性従業員。

 どうやら彼女には霊感があるらしい。


「やっぱり……いたのね……なんとなく感じていたけど、今日はハッキリ見える」


 青ざめた彼女は、恐怖に震え始めた。

 

 どうやら、ユウの霊力が地縛霊の力も向上させてしまったらしい。

 

 店員の彼女の霊力も加わり、かなり強力な地縛霊と化した女は店中の全員に、なにかおかしな者がいるのを感じさせた。

 客が騒ぎ始め、覚悟を決めた店員の一団がユウのテーブルに向かってきた。


「あれ? たくさん店員さんが来たよ、なんでかな」

 楽しそうに話を続ける女と、近づく店員達を見ながらユウはため息をつく。


 結局店から退出を懇願され、しぶしぶ応じる事になった。

 二人でシュアした、食べかけのハンバーグとホワイトシチューはとっくに冷めていた。


「あれ~浅井君、もういらないの~? 残しちゃだめだよ~」

 席を立つ僕に、女の霊が注意する。

「はいはい、今度から気をつけます」

「うん、分かればよろしい」

 出口に向かう僕とユウに、店長らしき人が声をかけてきた。

「お、お代は結構です」

 店長の言葉には無反応でレジへ支払いに向かうユウ。

 震えるレジに立った霊感が強い女性従業員。顔にまだホワイトソースを付けたままの、僕を見くらべて、お代を払うユウ、慌てて僕は自分のお代を出す。


「またね~~バイバイ」

 奥の席から手を振る女の霊が、僕たちに嬉しそうに笑っていた。



 レストランを出た後、しばらく店を見て歩く二人は原宿通りを通り抜けて、横に走る大きな道路に突き当たった。


「ユウ、こっちにはお店が無いよ。何か他に用事でもあるの?」

「うん? ああ、そうだね。わたし、何でこっちへ来たんだろう?」

 通りを戻ろうとしたユウの視界に、気になるものが目に入る。

 赤い色の皮のジャケット。


 大きな通りを挟んでも、ジャケットの色は血のように深紅に発色し、道行く人々がモノクロに見える程のインパクトを与えている。

 真っ赤な皮のジャケットと皮の黒のパンツ、ジャケットの下には紺と白の縦のストライプシャツ。金に染めた髪と細いサングラス。


 まっとうな職業ではなさそうだ。


 最初赤いジャケットに目を引かれたが、ユウが真に注意を引かれたのは、はだけた胸に下がるネックレスだった。この距離では殆ど見えないそれは、僕でも一瞬、目眩を覚えた程、強烈な負の力を発していた。


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