第3話 僕の能力

 いきなり中学生女子の一人暮らしに突入した。

 僕はどこでもいそうな、気弱な高校生で今突入している部屋の住人、年下の美少女から「浅井君」クンづけで呼ばれる者です。


 そんな僕の前で繰り広げられる、ゲームのとりあい、普通にありそうな光景だが、相手が、武者姿の悪霊と美少女というところで、特記事項になってしまうね。


「はい、ゲームはもう終わり。強制終了!」

 少女は懸命にゲームをしていた、悪霊のゲーム機のスイッチを強制終了!


「我の遊技の静的情報が破壊された時は如何いたす!」

 ゲームを強制終了された悪霊。表情は暗い闇のようで伺えないが、語気で不満に思っている事がわかる。


「たかが、ゲームのセーブデータが消えただけでしょう?」

 中学女子、とびきりの美少女はゲームパットを悪霊に放り投げる。

「はい、これ返すわ。ふぅ、少しだけスッキリした」

「なんとも乱暴な娘じゃ……これだから我は気を抜けないのじゃ」


 悪霊は兜の下の、丸く赤く光る目をユウに向ける。

 僕からは目以外は黒い霧で覆われていて、顔の表情は分らない。

 しかし首をひねり、僕の方を見たのは分かった。

 悪霊に見つめられる、そんなファーストセッションで、僕から出た言葉。


「はじめして悪霊さん……えっと……銀河鉄道の車掌さんに似ていますね、お顔が……」

 もちろん何の事か、悪霊には通じなかった。

「珍しいなユウ。ふむ、まあ外見は終わっているが、魂はまだ始まってない、汚れてはいない感じだな、それで部屋まで連れてきたのか」


 ユウは腕組みしたままで、悪霊を睨みながら頷いた。

「そうよ。どんなに頭が良くても、立派な身体を持っていても、魂が汚れればいずれ、その者は私に害を成す、そう教えてくれたのはあんたじゃないの悪霊」

 ユウの言葉に頷いた悪霊。

「そうじゃ。ユウは生まれながらの強力な霊能力を持っている。だから、人も霊も引き付けるが、その者にはユウに群がる霊が仇を成す。だから、魂が汚れていない、そしてこれが一番大事だが……ユウに近い霊能力を持っている者でなければいけない。自力で魂が侵されるのを防げるくらいの力が必要じゃ」


「え!?」思わず感嘆詞を大きく呟いた僕。


「僕に霊能力なんてないですよ!? 今まで金縛りもなかったし、肝試しに廃病院とか行きましたが、怖くもなんともなかったし」


「ふぅう」今度はユウが大きなため息を吐いた。


「その廃病院は知ってる、本物よあそこは。肝試しの時、体調が悪くなっ子がいたでしょう?」


 肝試しの場所が本物認定されたが、確かに十人くらいでいって、僕以外はみんな真っ青な顔して、吐いたりしてたっけ?


 ユウは頷いて、一番わかりやすい事で、僕の霊能力を説明した。

「一番の証拠は、あなたが今、見えてる事。悪霊が無意識に普通の人に見る事はないの。そこでゲームしているおっさんが見えているなら、かなりの霊能力を持っているって事になる」


 僕に意識を向けている最中、ゲーム機を起動しようと手を伸ばした悪霊に、向き直るユウ。慌てて、手を引っ込め、ゴホンと咳払いをした悪霊。


「そうじゃの。高い霊能力がある。ただし、かなり珍しいものじゃな。亡者除けに振り切ったような力じゃな」


「へ?」別の感嘆詞が沸いた僕に、ユウが曖昧だが今風にわかりやすく説明してくれた。

「つまりAnti-psychic ability。アンチ霊能力ってやつ。浅井くんには霊は手を出せないの」

 

 いきなり僕が高位の霊能力者だったと言われても……返事はおもいつかない。

 

 無言で流れる時間、少しの間をついて、悪霊がゲームの起動を試みる。

 即座に、キーパッドをとりあげたユウに、怒りをみせた悪霊。


「うん? なんで悪霊が怒っているって、わかるのだろう? 容姿に変化はないのに」

 僕が自分の能力を探り始めた時、ユウと悪霊は言い争いを始めた。


 やはり、僕が思ったとおりで悪霊は怒ったようだ。

 怒る悪霊に恐れどころか、こき下ろしにかかるユウ。


「なによ! 凄んでも全然怖くないわよ。子供の頃からあんたが側にいたからね。おかげで、私の周りでは超常現象が起こりっぱなしよ! 転校先では恐れられ、結局、私の生まれたこの区の中学に逆戻り。父さんの仕事の都合での都外への転校だったから、私だけ戻る事になってさ。イタイケナ中学女子が一人暮らしになっている。誰のせいだと思っているのよ!?」


 いつもの事なのだろう、お互いにエキサイトはしているが、僕にはある意味仲が良い者のじゃれ合いに思えた。やはり、僕には力があるのかもしれない。


 感情を感じられたからではない。

 悪霊とそれと喧嘩している少女に、違和感がまったく沸かないからだ。

 悪霊は普通にここに存在し、ちゃんと有る者として少女は接している。

 駅前で口喧嘩している恋人同士を見ているような感覚だった。


 悪霊が立ち上がり、ユウに言葉をかけた。

「我がユウの此所に居るのには、ことわりが存在するのじゃ。そして我は悪霊では無いし、別にユウの恋路を邪魔しているわけではない」


 腕組みしたままユウが不満そうに聞いた。


「悪霊でないなら、ここにいる理由、生まれたときから私に憑いている、その、ことわりってのを教えてよ!」

「……それは答えないといけないかの」


 考え込む悪霊をツリ目の大きな瞳が睨んだ。


 どうやら追い払う策を練る為に、悪霊がユウに憑いている理由をどうしても聞き出したいようだった。悪霊がいうところの、ことわり、について。

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