第7話 ひとまずなんとかなりそうです

 恐る恐る遥飛の顔色を窺うと、案の定大きな瞳をこぼれんばかりに見開いていて。ああ、申し訳ないことを言ってしまったなという罪悪感が胸のあたりを覆う。一瞬の逡巡の末、口を開こうとすると、遥飛は投げやりに伊鞠に問いかける。


「うち、異能持ってない子は入れないんだけどなあ。伊鞠ちゃんの異能が地味なだけじゃない?」

「うう、本当に使えないんですよ……」


 変に気遣われるくらいなら率直に言われた方がいいのかもしれないが、流石にこう言われると堪えるものがある。


「別に六人かそこらしかいないんだし、賑やかになっていいじゃないですか」

「おまえは本当に能天気で呆れるよ」


 二人の会話を聞きながら、立派な建物の割には随分と少数の組織だなあ、と伊鞠は思った。


「……あの、なんで異能が使えないといけないんですか?」


 頃合いを見計らって、控えめに問いかけてみる。寒凪家では何よりも素晴らしいとされていたが、市井では差別の対象だという異能を扱えることが必須条件である隊など、伊鞠は耳にした覚えがない。


「うちの紹介、まだだっけ? ──ここは近衛零師団このえぜろしだん。この国最古の師団かつ、異能を持つ唯一の存在である華宿りが集められた、他国に対抗するための隠し玉かつ最終手段だ」


 だが、ここ最近まで国境を閉ざして他国との交流を絶ってきた朱雀国にとって、零師団という存在は形骸化したも同然であった。

 その為、殆どの華宿りは素性を隠し、ごく普通の一生を過ごせるように身を潜めながら生きるのが一般的である──とされていた。


「……でも、いろいろあって朱雀国は隣国に開国を迫られた。他国では誰もが扱える魔法──この国でいう異能──を扱えるものは散々差別の対象にしてきた華宿りだけだったし」


 他国との交流を完全に閉ざしていたせいで、この国の技術も圧倒的に遅れている。

 むしろ、今まで他国から強硬手段をとられていなかったこと自体が奇跡のようなもので。


 そこで、他国に対抗できうる手段を待つことが早急に必要になった。

 現在は国を挙げて華宿りを師団に集め、人材育成をしている最中なのだという。


「……それだと、私って完全に用無しですよね」

「正直に言うとね。でも、異能が本当に発現していないのかって言われたら微妙なとこかな」

「え」


 驚いて、俯かせていた顔をぱっとあげて、遥飛を見つめる。すると、遥飛は苦笑して、「一回も異能を使おうって思ったこと、ないでしょ?」と問いかけた。


 言われてみれば、確かにそうかもしれない。


 (何回も異能を使えたら、って思った。……けど。異能を使えてしまったら、今度こそ本当に人でないものになってしまうような気がして、怖かった)


「私も、異能が使えるかもしれないんですね」

「そのうちね。ま、それまではうちが保護してあげる。鈴芽の言う通り、ここは万年人手不足だからさ」


 遥飛はにこにこと腹の底が読めない笑みで伊鞠を見やる。


「精一杯頑張りますので、よろしくお願いします」


 その笑みに若干気圧されながら、伊鞠は出来るだけ声を張り上げた。


 

 

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