第2話 この子を俺に下さい



 いつまでも頭を抱えているわけにはいかない。

 俺はイマ先生がいる仕事場へと向かった。

 そろそろ助手する時間だ。


 午前は模擬人格を作るという自分の実験で。

 午後は大罪の研究をするイマ先生の助手をする事になっている。


 模擬人格は、AIつくりに似てるかな。

 プログラムを組む形に近いから、それほど仕事への抵抗感はない。


 けれど、大罪ってやばくない?

 よく聞く、傲慢とか嫉妬とか色欲とかそういう奴でしょ?


 めっちゃ悪の組織っぽい。


 どうしよう俺の研究のせいで、何千・何万もの犠牲者が出ちゃったら。


 異世界とか滅んじゃったらどうしよう。


 この研究の施設、なんかホールに色んな世界の名前がはっつけてあって、損傷率とか書いてるんだよね。


 こっわ!


 何ここ、こっわ!


 悩みながらたどりついた部屋に入ると、イマ先生が待っていた。


「来たか」


 うん。


 イマ先生の性格は、とてもクールだ。


 あまり喋らない人。


 よく言えば物静かで頭よさそうって感じだけど、悪く言えば人間味がない。


 とっつきづらいんだよな。


 もうちょっと笑ったり、怒ったりすればいいのに。


「おっ、おはようございます」

「……」


 あと、挨拶してもスルーだし。


 俺達は、淡々とした顔で今日の仕事の打ち合わせをしていく。


 大罪の器に関する検体の解剖とか、投薬とか。


 一応今まで俺もやって来たんだけどね。


 よくこんなグロいことしてたな。

 そりゃ、新薬の開発とかだったらある程度は必要だと思うけど。


 絶対罪もない人かってに攫ってきちゃったりしてるでしょ。


 うわぁ。


 一体何の目的でそんな事してるんだろう。

 俺も、他の人達もやらされている事の目的は知らないからなぁ。


 でも、末端の人間なんてそんなもんだろう。

 闇組織だし。


 むしろ下っ端が上の理念を全部理解できてたら、それはそれで怖いわ。


 それで、打ち合わせが終了。


 今の俺の頭優秀。


 考え事しながらでも、それくらいお茶の子さいさいなのね。


 話し合いが終わった後はどこかに連れてかれた。


 新しい被検体の様子を観察するためらしい。


 挨拶ではないんだな。

 さすがマッドサイエンティスト。

「観察」とか、ペットじゃあるましし。


 そうして辿り着いた部屋は、


 牢獄……だった。


 おおう。


 さすがに記憶と実際に見るのとじゃ違う。


 絵面が悲壮感。


 で優秀な今世俺は茫然自失中でもオートで移動。


 その検体がいる牢屋の前にたどり着いた。


 そこにいたのは。


 白髪の綺麗な美少女だった。


「……かわ、いい」


 まるでよくできた人形のように美しい、花のように華がある、可憐な少女だった。

 

 あどけない顔つきで、おさなげな雰囲気があるけれど、またそこもいいっ!


 俺は一目で目を奪われてしまった。


「イマ先生、――この子をお嫁さんにくださいっ!」


 じゃない。何言いってるんだこの口は。


 イマ先生は無機質な瞳をこちらに向けて、何言ってるんだこいつ、みたいな顔をした。


「じゃなくて、俺の担当にしてください。ぜひっ、ええぜひっ。すごく興味が湧きましたのでっ!」


 俺は、自然とイマ先生の手を握って詰め寄っていた。


 必死に懇願していたらイマ先生ドン引き。

 さすがのマッドサイエンィストでも、面食らう勢いだったらしい。


 俺は「しっ、失礼! ゴホン」咳ばらいをしてごまかした。


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