第3話 シロンという少女
あれは、及第点の「きゅう」の字もあるかどうかあやしい申し出だった。
にもかかわらず、イマ先生は俺に担当を譲ってくれたらしい。
元はイマ先生主導で研究をやるはずだったようだけど、まあ細かい事はいっか。
これからは俺が主導して被検体のデータ採取を行う事になった。実験とかもだ。
それで、俺の被検体となった少女は移動させることにした。
さすがにずっと牢屋の中じゃ可哀そうだしね。
今は、不安そうに強化ガラス越しの部屋の中にいる。
この部屋、なんて言うんだっけな。
ショーケース?
とかいう場所らしい。
特殊な装置を使って出入りするんだけど、この空間だけ研究所とは離れた所にあるんだ。
そんで、宇宙の中にガラスケースが浮いてるみたいな形になってる。
どうなってんの?
って思ったけど、まあ悪の組織のやる事にいちいち突っ込んでたらキリがないしな。
考えようによっては、無料でプラネタリウムが見れると思えばそれでいいだろう。
そういえば、一度研究者の一人が、えーっと誰だったっけ。
オモテウラさんとかいう面白い名前の人が見に来てたな。
俺の顔みたら、「こんなのがなんでいるんだ」みたいな、なんかものすごい嫌そうな顔されたけど。
何だったんだ?
ショーケースの中に移動させられた少女は、周囲をしきりに不安そうに眺めていて、なんだかとても落ち着きがなさそうだ。
まあ、いきなり変な所に連れてこられたら、そうもなるよな。
とりあえず、まずは挨拶をせねば。
「あー、あー、おほんっ!」
少女は、びくっと肩を揺らしてこちらを見た。
すごい驚かせてしまった。
なるべく優しく喋る様にしよう。
もうちょっと声は小さめがいいかな。
俺の声質大丈夫?
女子に引かれるような凶悪な声とかしてないよな?
「俺の名前はキルトだ。君の担当になった。よろしく。怖がらなくてもいいよ。俺は君に危害を加えるつもりはないから」
あっ、困ってる。
少女は「そう言われても」といいたげな顔をしながらこちらを見ていた。
そりゃそうだよな。いきなりこんな所に連れて来られて閉じ込められたんだから。
俺が会うまでは、どんな生活していたのか知らないけど、彼女には家族だっていただろうし。
この子、そういえば今まで何してたんだろう。
「君の名前は?」
警戒している少女はためらってから教えてくれた。
「シロン」
おずおずと喋ってくれるのもかぁいい!
「そうか、雪のように真っ白な君の髪にぴったりだ。良い名前だね」
だから、俺はそう褒めるだが。
ちょっと気障だったかもしれない。
けど、思った事を率直に述べてみると、少しだけ警戒を解いてくれたようだ。
褒められたからか、ちょっと嬉しそう。
でも、さてこれからどうしよう。
検体の扱いをする時は、まずどうするんだっけな。
頭の中の知識を引っ張りだす。
マーカーをつけましょう。
みたいな情報が出てきた。
マーカーってなんぞ?
より分かりやすく理解するために俺は、前世で読みふけった異世界ファンタジーの知識も引っ張り出した。
マーカーとはGPSみたいなもの。
そんで、検体がマスター(マーカーをつけたもの)の半径数百メートル以内にいる間、悪戯とかのおいたをすると。
びりびりびり!
と電流を流す事ができるようだ。
ようするに、監視とお仕置の役目を果たす道具か。
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